柳宗悦の視点でシエナをみてみる
日本の実家「我孫子」には、
静かに名前を残した偉人が多く暮らしていた。
今回の日本帰省では、
あえて、東京に出向く事もなく、
もっぱら地元を歩き回り、彼らの基軸を追うように過ごした。
家から一キロほど歩いたところには、
柔道を創始した加納治五郎が住んでいて、
その姉・勝子の息子である柳宗悦も、
25歳で結婚をすると、伯父である治五郎の導きによって我孫子へやってきた。
そして「民藝」という言葉とともに、
無名の職人たちの仕事の中に宿る美を見出した人物として知られるようになる。
「民藝」という言葉から感じとれる職人の存在。
シエナには職人はまだまだ健在で、
小さなオリーブ農家、家族でワインを作る人々、工房で黙々と手を動かす職人たち、古いものを修復する人等など・・・
大きな市場の流れの中では決して目立たないが、
それでも自分たちのやり方を手放さずに生きている人々との出会いがある。
効率や規模だけでは測れない場所で、
彼らが守っているもの。
そんな彼らの在り方が、
今から93年前に出版された柳宗悦の本『民藝の趣旨』から、伝わってくるようだ。
今のシエナと93年前の日本。
それは、日々の暮らしの中に潜んでいる、
「共通した感覚」「美の気配」のようなもので、
これまで、自分の中でうまく言葉にならなかった感覚が、彼の言葉を通して、少しずつ輪郭を持ちはじめていくようだ。
大企業に市場を奪われ、存続が難しい現在、
頑な精神なくしては、現状維持も前に進む事も出来ない。
そんな彼らの持つ感覚とは?
93年前に書かれた柳宗悦の思想は、
今後、私がシエナで職人に出会う際の着眼点を与えてくれます。
以下、柳宗悦の思想をご紹介します。
■■■■■
民藝とは何か
よく人から「民藝とは何か」と尋ねられます。
そのたびに同じ説明を繰り返さずに済むよう、
ここにその意味をまとめておきます。
近年、「民藝」という言葉は広く知られるようになりましたが、同時に誤解されることも増えています。
だからこそ、その本来の意図を明確にすることが重要なのです。
「民藝」という言葉は、「民衆」の民と、「工芸」の藝を組み合わせたもので、「民衆的工芸」を意味します。
貴族のための工芸や、単に鑑賞されるためにつくられたものとは異なり、その中心にあるのは日常生活の道具です。
衣服、家具、食器など、生活に必要なものすべてが民藝に含まれます。
その主な特徴は2つあります。
それは「実用品(用をなすもの)」であり、
誰にでも手が届く「普通の品(民衆のもの)」であるということです。
したがって、高価なものや、限定生産のもの、あるいは著名な芸術家によって作られたものは、民藝とは呼べません。
さらに重要な原則があります。
それは、道具はその用途に対して誠実(忠実)でなければならないということです。
現代の生産においては、しばしば利益が最優先され、
機能性や品質が軽視されがちです。
同時に、過度な装飾が施されたものや、個人の趣味に偏ったものも、道具としての本来の目的を見失う危険があります。
一方で、民藝の品は無理な主張をせず、
適切な素材を用いて丁寧につくられます。
日常生活において実用的であり、使いやすく、丈夫で、時が経つほどに馴染んでいくもの。これこそが理想です。
したがって、自然で、簡素で、本質的であり、信頼できるもの。
これこそが民藝の真の姿です。
その美しさは装飾から生まれるのではなく、機能への誠実さから生まれます。この特質は「健やかな美(健康な美)」と言い表すことができるでしょう。
工芸の大部分は、日常の道具に関するものです。
ですから、工芸を真に発展させたいと願うならば、最も普及している日常品の質を向上させなければなりません。
少数の優れた作品が存在するだけでは不十分です。
それだけでは、生活全体の質を高めることはできないからです。
しかし現代では、まさにその日常の道具が軽視され、
粗悪な製品がますます普及しています。
その結果、人々は物への愛着(大切にする心)を失い、
その感性も鈍くなってしまいました。
かつては、使い込むほどに味わいが増す道具が存在し、
人と物との関係はもっと深いものでした。
私たちは毎日、衣服や食器、家具に囲まれて暮らしています。
だからこそ、これらの道具の質は、
私たちの感じ方や生き方に直接的な影響を与えるのです。
それにもかかわらず、現代においては主に
「視覚的な美」ばかりが重視され、
「用に結びついた美」は置き去りにされてきました。
その結果、美が生活から切り離されてしまったのです。
しかし実際には、美が最も豊かに現れるのは、
日々の暮らしの「用」の中においてに他なりません。
茶人たちはそのことを理解しており、
最も簡素な道具の中に価値を見出しました。
したがって、日常生活の道具をより良くすることこそが、この美を広める最も重要な道なのです。
民藝が衰退すれば、工芸全体もまた損なわれてしまうでしょう。
民藝の特質は、次のように要約できます。
実用品であり、普通のものであり、
無名の職人によって作られ、
手仕事によるもので、地域に根ざし、伝統に支えられていること。
それらは独創性や名声を求める心からではなく、
長い時間をかけて培われた技術から生まれます。
ここから、自然で、安定していて、
行き過ぎたところのない美しさがもたらされます。
それは個人に依存する美ではなく、
より広く、皆で共有されたものに支えられた美なのです。
民藝の美は、2つの根本的な思想にまとめることができます。
1つ目は「用の美」です。道具がその機能をしっかりと果たすことから、自然と湧き出る美しさです。
2つ目は「民衆的・自然の美(無事の美)」です。
作為がなく、過剰さがなく、穏やかで調和のとれた美しさです。
民藝の品には、誇示(見せびらかし)や、
無理に仕組まれた独創性はありません。
| 固定リンク

