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2026年5月17日 (日)

好奇心の芽

「ただいま~」

母が、清々しい顔で朝の散歩から戻って来た。

「おかえりなさい、お母さん。
 今日は、何色のお友達に会ったの?」

「今日はね~、茶色のお友達がいました。
 でも、触らせてくれなかったけどね」

母は、1.5km離れた手賀沼まで行って戻ってくる。

道すがら、散歩している犬が尻尾を振って母を見つめ、飼い主さんが立ち止まってくれたら、撫でてあげ、
手賀沼に着くと、ベンチに座り、暫く人間ウォッチングを楽しんでから、家に戻ってくる。

そして私たちは、朝食につく。

今日は、納豆に大葉と生姜とネギを加え、
そこへ酢と醤油を入れてみた。

焼き魚はいつもの鮭。

お味噌汁の具はキャベツ。

そして、1枚だけ残っていたハムとキャベツでコールスローサラダを作った。

この時期のキャベツは安いから丸ごと買うけど、
なかなが減らないので、強制的にテーブルに並べる事になる。

「いただきます」

「ん~、美味しいね~」

私は食べ始めに夢中になったが、母はどこか遠くを眺めるように、
余韻に浸っている。

「それにしても、昨日は楽しかったね~
 我孫子市民の歌。
 あの歌、作曲したの、誰だったかな~?
 有名な人が作曲したんだよ・・・・」

母にとっての朝食のおかずは、我孫子市民の歌だ。

「誰だったっけな~、
 あの歌、書いた人・・・
 有名な人なんだよ・・・
 今日、図書館に行って聞いてみたら、誰か、分かるかな?」

「そうだね。図書館に行って、聞いてみようか?」

我孫子市民の歌を作曲した人は誰か?
そんなこと、ネットで調べればすぐに分かる。

でも私は、あえて黙っていた。

昨日、母と私は、我孫子市民プラザで行われたイベントに参加した。

それは、我孫子の歴史を語る会で、
スライドに映る数々の風景を通じて、
街の歴史を学ぶ事が出来る。

イベントは、我孫子を時空を超えて巡るバス旅行、というスタイルで、運転手とバスガイドさんが分かりやすく、時には冗談を織り込みながら、親しみやすく解説してくれる。

100年前に遡ってみたり、初日の出を見にいったり、
イベントには地元の合唱団も参加して、
春のシーンでは春の歌を、花火のシーンでは花火の歌を聞かせてくれた。

そんな会の締めくくりは、我孫子市民の歌だった。

私は、その時はじめて、我孫子市民の歌がある事を知ったが、
母は既にその歌を知っていて、一緒に口ずさんでいた。

約200席ある会場は満席。

前売り券が1000円。当日券は1200円。

来ているのは全員といってよいほど、65歳以上の高齢者だった。

物価があがり、年金生活者にとって1000円という金額は決して軽くない。

(無料にしたら人が来るかな?)

(300円なら?
 600円!・・・
 1000円に設定してしまったら人は来るのだるか?)

そんな憶測もよぎった事だろう。

しかし、1000円、1200円を支払ってまでもこのイベントを心待ちにしている人が、これほどまで多い事に驚き、また、会が終わって席を立つ人の生き生きした表情を見て、「凄いな」と感じた。

朝食を終えると、母はいつものようにソファーに着き、
私は、自分の部屋に戻った。

するとすぐに「きよさ~ん・・・」と母の声。

「分かった、分かった!小椋佳だった」

母はスマホで我孫子市民の歌の作曲家を検索し、
小椋佳だった事を思い出して、すっきりしている。

そして、ユーチューブで我孫子市民の歌を検索し、一緒に歌ってる。

昨日のイベントを通じて、母の心に咲いた好奇心のパッション。

「この歌、いいな~
 誰が作曲したんだっけな~?」

「知りたいな~」

もし、私がさささっと検索してしまったら、
それは、花屋で買った切り花のように、短く咲いてお終い。

でも、母が好奇心の種を、自分の力で育てた結果は、
地に咲く花のように、長い時間、その話題を愛でる事ができ、
そしてまた、次の花も咲きやすくなる。

「もう年なんだから、一人暮らしは不安でしょうがない」

「もし、携帯が壊れたらどうしよう」

「もし、歩けなくなったらどうしよう」・・・

と、今、降りかかっていない不安を口に出してしまう時も多々あるが、

82歳の母に、「知りたい」という小さなパッションが宿り、
それを探索して、喜びを咲かせている母を見て、私にまで幸せが香ってくる。

今、母が私に話かける

「きよさん、何時頃、行く?」

「そうだな~、あと15分したら行こうか?」

母が私と一緒に図書館に行きたがっているので、
この変でブログを閉じますね。

皆様、穏やかな週末をお過ごしください!

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