嬉しい電話
もうすっかり朝だというのに、
布団の温度が気持ちよすぎて、なかなか抜け出せないでいる。
まどろみの中で、うとうとしていると、
ピーンッ、とメッセージ音が鳴った。
「きよみさん、今、お話できますか?」
発信は結菜ぴょんから。
母とマッシモ以外からの朝の連絡は、
たいてい何か事情があることが多いので、
「何かあったかな?」と少しだけ胸がざわつく。
そう思いながら電話をかけると、
受話器の向こうからは、いつも通りの明るい声。
それだけで、ふっと安心した。
「あのね、きよみさん、今、話してても大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ?」
「あのさ〜、最近さ〜、嬉しい事が沢山あってさ〜!」
弾むような、明るくて弾力のある声。
先週末、フィレンツェでバレエの大会があったこと。
バレエの筆記試験に全力で取り組んでいること。
写真撮影が控えていて、ダイエットに一層力を注がなければならないこと。
楽しそうに、途切れることなく語り続ける。
私は内心、
「……で、実は……」と続くのかな?
何か相談があるのかな?と、少し構えていた。
けれど今回も、結菜ぴょんは、
ただただ、近況を伝えたくて連絡をくれただけだった。
シエナでの留学生活にもすっかり慣れ、
イタリア語も分かるようになり、
イタリア人の仲間と笑い合い、
時には先生に食ってかかり、そして仲直りする。
なんてまっすぐなんだろう。
もし私が、彼女と同じ21歳の頃、
あんなふうに振る舞えていたら――
もっと友達ができて、
もっと豊かな人間関係の中で、
もっとたくさんの学びを得られたかもしれない。
最近になって、私はようやく変わることができたけれど、40代になるまで、とても閉じた性格だった。
自信がなくて、不安で、怖くて、
どうしていいか分からなくて、怯える日が多かった。
それでも表向きは、社交的なふりをしていた。
「いい子」でいることで相手に気に入られ、
いざという時に擁護してもらおうとする、
そんなセンサーが、いつもどこかで作動していた。
相手への親切に見える行動の多くは、
実は、自分のためだったことも多い。
あの頃、自分のキャパを超えようとしてまで踏ん張っていた私を、今さら責める必要はない。
でもきっと、相手には分かっていたのだと思う。
私の気持ちが、本当の意味で相手に向かっていなかったことを。
時間とともに、私も少しずつ変わっていった。
時々かかってくる、結菜ぴょんからの電話。
「キヨミさんのことが好きだから、お喋りしたいんだよ〜」
そんな気持ちがまっすぐ伝わってきて、
胸がきゅんとなる。
| 固定リンク







