シエナのストリートの大学
3~4日前に、日本から沢山の日本人留学生がシエナにやってきた。
彼らのイタリア滞在は僅か1か月。
「やっとイタリアの生活に慣れてきたな~」と感じる頃に、
帰国を迎える事だろう。
短い滞在期間だけど、日本では体験できないイタリアを五感で感じてもらいたく、
学生たちを連れ、駅の裏にある小さなバールに向かった。
「皆!自分の注文を口にしてみましょう!
では、バールに入りますよ~!」
テーブルが3つ置かれた小さなバールに、
私たち7人が入店すると、
バールは、日本人女子の貸し切り状態となった。
この店は、バールと、カプセルコーヒー販売の2つのスペースがある。
私たちが入店した時、バールのおばさんは、
カプセルコーヒーを買いに来た客の対応をしていて
なかなか手があかない。
暫く待っていたら、若いイタリア人男性が勢いよく店に飛び込んできて、
「Ciao Nonna(チャオ お祖母さん!)」と叫んだ。
続いて、この店で働く40代くらいの男性も店に戻って来た。
甥っ子は、学生たちが発するイタリア語を全て聞き取ってくれて、
もう一人の男性がカフェ、カフェマッキート、ラテマッキアート、ホットチョコレートを入れてくれた。
カフェにまつわる名前の説明をしているうちに、
Ammazzacaffè(カフェ殺し)の説明にも踏み込んでしまった。
カフェを飲み干した後、カフェの香りが残るカップに蒸留酒を注いでもらう。
それを飲み干すと、カフェの余韻なんて吹き飛んでしまうから、
Ammazzacaffè(カフェ殺し)と呼ばれる蒸留酒の楽しみ方。
Ammazzacaffèを注文した後、何の蒸留酒にするか?選べるが、
今回はサンブーカを注いでもらった。
珈琲とは別に、蒸留酒を小さなカップに入れて出す方法もあり、
バリスタは客の好みに応じて、提供する。
私は、38度数あるサンブーカを一気に飲み干した。
「救急車を呼ぶかい?」というバリスタの突っ込みに、
バールの空気が和らいでいく。
カプセルコーヒーの客の対応を終えたオーナーのおばさんも私たちに加わり、
お喋りをし始める。
そのうち、近所に住む常連客もポツリポツリと入ってきて、
日本人女子で埋め尽くされた光景に驚きながらも、
私たちに話しかけてくる。
イタリア人女性から「どこから来たの?」と聞かれ、
「日本からです!」と答える学生たち。
続いて、私が
「まだ来たばかりなので、イタリアのパスタの種類とかの説明をしたんですよ」
というと、甥っこバリスタが「シエナの郷土麺はピーチだよ!」と言った。
すると、イタリア女性客は「あら、違うわよ!Val di Chianaよ」と強めに反応。
負けずと、甥っ子バリスタは「でも、Val di Chianaだって南トスカーナ。ほぼ、シエナじゃないか!」と言い返す。
両者が議論する中、
「イタリアではね、こうした細やかな話題からもお喋りが盛り上がっていくのよ!
皆、持論を持っていて、主張するのがイタリアなの!決して、喧嘩じゃないのよ!」と解説した。
女性客が私たちに挨拶をして出ていくと、
入れ替わって、近所に住むお爺さんが入店してきた。
「イタリアは好きかい?」
「はい、好きで~す!」
「お~、そうかい、そうかい。
私は暇つぶしに来てるのさ。
ところで、私は幾つに見えるかい?」
ど~見ても、誰が見ても、80代。
この空気感に気持ちが和らいだのか?
一人の女子学生は小さな声で
「60ですか?」と優しい言葉を投げかけたが、お爺さんの耳には届いていないようだ。
「こう見えても、わしゃ~、50を過ぎておるんじゃよ!」
へっ?と思いながらも、お爺さんの言葉を通訳すると、
日本女子たちは、突然のギャグに面食らった表情をしている。
30分ほど過ごし、お会計をして店を出た。
ちなみに、このバールでは、テーブル席でカフェを飲んでも1ユーロ。
良心的だ。
大学の授業を終え、学校から出てきたばかりの彼女たちの表情は少し硬かったけど、
バールを出た時の彼女たちには、笑顔が浮かんでいた。
"L'università della strada"(ストリートの大学)という言葉がある。
町の小さなコミュニティや日々の経験を通じても、多くのことを学ぶ、という意味。
まだ二十歳の学生さんたちには、
この1か月で、"L'università della strada"(ストリートの大学)からもイタリアを感じてもらいたいな~、と感じる今日この頃です。
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