家でテレビを見続けるのもしんどくなり、
ふら~と外に出てみる事にした。
さて、何処に行こう?
飲むには、まだ早すぎる・・・
ヨーカ堂で時間をつぶしているうちに小腹が空いてきたので、
隣接している回転寿司に足が向いた。
16時過ぎ。
空いた店内のカウンターで、
のんびりと本を読みながら寿司を食べるなんて、
寿司カフェっぽくて、なかなか居心地が良いものだ。
私の右隣には、私と同年代くらいの女性が座っていて、
彼女が注文した皿が、私の目の前をビュンビュンと通過しては、
彼女の目の前で、ピタっと止まる。
そんな急行寿司を眺めながら、
「あっ、マヨネーズ!」
「おっ!お次はポテトときたか・・・」
等など、つい観察してしまう自分がいる。
右隣の女性は席を立ち、お会計に向かうと、
その席には、少し年配の方が着席した。
気配からでは、男性だか女性だか分からない・・・
気づくと、その方の前のレーンには、
5皿の寿司が並んでいた。
回転し続けるレールの上段のレールに、
タッチパネルで注文した何皿もの寿司が並んでいる光景に軽く驚いた。
少し経って「34番のお客様、お寿司をおとりください」と店内放送が流れた。
何だか面白いな~、と一人ほくそ笑んでしまった。
私の左隣には、少しおめかしをした年配の女性が着席した。
「すみません」と店員さんに声をかけ、
「お茶は、どうやったらいいのかしら?
ごめんなさいね~
私、はじめてなのよ。こういうとこ」
と言っている。
「初めての回転ずし! 大丈夫かな、この方?」
気になりつつも、見ちゃいけないと思い、
意識を本に向けると、こんな文章が目に飛び込んできた。
「困っていても誰にも言えないような人が
心を病んだり、
うつになったりするのだと思います。
そういう人に対しては、
周囲の人間が気づいてあげて、
その人が置かれている状況を理解してあげて、
優しくしてあげることが、まずは大切です。
やはり優しさが必要です。
人間というのは、優しということが一番の美徳なのではないでしょうか」
何故、このタイミングにこのフレーズが?
鬱になるほどの状況ではないけれど、
この女性は、初めての回転ずしの状況を困っているはず。
そして、周囲の人間とは・・・私???。
「気づいてあげて、その状況を理解し、
優しくしてあげることが大切です」
本から囁かれているような気がして
そ~っと体の角度をずらし、
「大丈夫ですか?」と声をかけてみた。
女性は少し照れた表情で、
「あ~、助かります。
私ね、テレビで見たのを食べてみたいの。
カニにマヨネーズが乗ってるやつ」
「カニですね。
タッチパネルを見てみましょうか。
にぎり、巻物、サイドメニュー・・・
あ、ここにカニってありますね。
ここを押してみましょう」
いくつか注文に付き合い、
私はまた、御一人様の世界に戻り、
本と寿司に向き合った。
それにしても、両隣の年配者の食欲は旺盛で、
この御年でこんなに食べれるものか!と驚いた。
彼らにとっては、きっと、早い夕飯だと思う。
しかし私にとっては、
居酒屋に行く前のアペリティーヴォ。
もし、空腹で居酒屋に行ったとしたら、
注文に勢いがついて、
食べ過ぎ、飲みすぎ、おまけに会計も膨れ上がってしまうだろう。
だから、衝動を抑えようと思って立ち寄ってみた回転ずし。
その時 読んでいたのは瀬戸内寂聴さんの本。
《人間というのは、優しいということが一番の美徳なのではないでしょうか》
ふと、この節を読んでいた時、
隣に年配の女性が座り、タッチパネルのやり方を教えてあげる機会を得た私。
これは、お皿5枚で びっくらぽんが当たるよりも、
はるかに嬉しいおまけの体験でした!

