最高のカプチーノ
バスを降り、少し歩き出したところで、
移民の男性から挨拶された。
「Ciao! あら、元気?」
返事をした瞬間、ふと彼の顔を思い出した。
以前、ボランティアに現れて、服やカバンを求めていたあの人だ。
「珈琲でも一緒にいかがですか?」
彼からの軽い誘いにのり、私たちはバールに向かった。
彼も私も、カプチーノを注文。
支払いをしようと、カバンから財布を取り出している間、彼はポケットからさっと50ユーロ札を出した。
「あっ、待って、私が払うわ!」
慌てて止めようとする私に、
彼は笑顔で「ノーノーノーノ、僕が払うから」と
断固として譲らない。
私はその気持を受け取って、ありがとう、と言った。
彼の名前はムハンマド。
洪水で故郷パキスタンを離れ、
イラン、トルコ、ギリシャを渡り歩き、
10ヶ月前にこの街、シエナに辿り着いた。
今は皿洗いの仕事をしている。
私たちは英語とイタリア語のシンプルな言葉を並べながら、なんとか話を続けた。
彼は、10歳の娘さんと奥さんの写真を見せてくれた。
暫くして、マッシモが現れた。
私たちは最初から、このバールで落ち合う事になっており、マッシモが来ることは、ムハンマドも知っていた。
事情を知らぬマッシモは少し驚いた様子だったけど、ムハンマドに敬意を示し、握手をして、私たちは店を出た。
異国の険しい道を越え、皿洗いで稼いだお金でご馳走してくれるムハンマド。
十分豊でありながら、
お金を持っている人を羨んだり、
お金がある人から搾取しようとする人もいるのに・・・
豊かさとは、いったい何だろう?
カプチーノの後味が消えてからも尚、
心の奥に、優しさがこみ上げてきます・・・
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