【女一人飲み その2】
中学時代の親友と松戸で飲み、
地元の駅に着いたのは深夜だったけど、
またいつもの居酒屋に寄ってしまった。
扉を開けると、お気に入りのカウンター席には男性客がいたので、2つ隣の席に着いた。
この日は土曜日で、
店長の娘、Yちゃんがホールで働いていた。
おしぼりやお酒を運んでくれる度に、
ちょっとした会話が出来る距離感が嬉しい。
「今、何に興味があるの?」
「お茶の倶楽部に入ってます。すっごく面白いです!」
「へぇ~、意外だな。素晴らしいね~
ところで、こんなに遅くまで働いてて疲れるでしょ。
明日は日曜日だから、ゆっくりと寝てられるね~」
「それが、明日もバイトを入れちゃったんですよ。
吉野家の牛丼でもバイトしてるんです」
「あら、そんなに働いて、お金が貯まるわね。
貯めたお金で旅行するとしたら、何処に行きたい?」
「そうですね~、京都かな?
修学旅行で行ったけど、旅行で行ってみたいです」
今ごろの大学生が、茶道に興味を持ち、
京都に行きたい、という感覚を持っている事に驚いた。
Yちゃんの立ち位置は、私と先客のカウンター席の男性の間だったので、Yちゃんを介し、私と男性は話をしはじめた。
50代半ばのヒョロっとした男性は、
緑色した酎ハイを何度もお代わりしている。
「この前のアメリカ出張は長くて、食事が辛かった」
と言うセリフからして、仕事はしっかりとしてそうだけど、
外見だけみると、凄くイケてない。
「僕、吉祥寺でライブを見てきた帰りなんです。
ものすごく腕のいいサックス奏者がいるんです。
彼は天才ですよ。
この前なんて、北海道までライブを観に行きました。
でも、ほとんどは、僕の貸切状態なんですがね・・・」
背中を丸め、緑色した酎ハイを飲み続ける男性に
何だか親近感を覚えてきた。
「お姉さんも、他で飲んできたって言ってましたね。
さっきの会話、聞こえてました」
「そうなんですよ。でもね、この店が好きだから、
ついつい、寄っちゃうの」
「そう。この店、いいですよね。
ぐるなびとかあるけど、
ネットで検索しても、店の雰囲気までは分からない。
結局、雰囲気なんですよ。店は。
僕はね、もう、ネットでは店を探しませんよ。
勘が良くなってきて、店選びも間違えなくなってきた」
「この店、心でもてなしてもらえるから、
嬉くて通っちゃいますよね。ソウルだわ!」
すると男性の声が、だんだんと弾んできた。
「わ~、今日は凄いぞ!
そう! 結局、心なんですよ。
この店ね、昨日はカウンターに、ヒマワリがあった。
今日は別の花。
ヒロミさんが毎日、花を変えてくれてるんです。
さっきのライブハウスのトイレにも、花があったんです。
僕、そういう所に感動しちゃうんだよな~
今日は、凄い!」
丁度その時、女将のひろみさんが刺身を運んで来てくれた。
私は彼女の耳元で
「あの男性ね、ひろみさんの心に感動しているんだって。
昨日はヒマワリで、今日はこの花・・・」
私たちはクスクスっと笑った。
暫くすると、店内に蛍の光が流れ始めた。
もう2時を回っていた。
今日も、酔い日でした!
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