魂込めた人生
昨日、クララの家に音楽仲間が集まって、
来週の老人ホームのコンサートで歌う演目を話し合った。
アルメニア人のアニエッサが「この歌、どうかしら」
と言って、ロシア語で『黒い瞳』を歌い始めると、
チェコスロバキア出身のクララ、
そしてウクライナ出身のエリーナも歌に便乗し、
私は彼女たちの迫力に圧倒された。
「これ、三人で歌いましょう! キヨミ、伴奏して!」
曲を把握したく、家でユーチューブで検索したら、
ロシアのバリトン歌手、
ディミートリー・ホロストフスキーの動画がヒットした。
残念ながら彼は
昨年の11月、55歳という若さでこの世を去ったが、
この映像は、まだ脳腫瘍が発見される前で、
オーラ―が漂っている。
『黒い瞳』はロシア語で魂をむき出しにして歌う曲なんだな、と感じた。
その後、ナポリ民謡の『Dicitencello Vuie』の譜面を見ながら、クラビノーバで練習していたら、隣の部屋に住むヴィンチェンツォが歌い出した。
彼とアパートの中庭で顔を合わせたら、
「キヨミ、さっき、Dicitencello Vuieを弾いてたね!
俺の両親はナポリ出身。ナポリの息子だよ!」
と放ち、足早に外出して行った。
この曲を耳に馴らしたくて
翌日、パトリッツィオの車内で口ずさんだら、
パトリッツィオも大声で歌い始めた。
「ナポリ民謡の中で、この曲が一番好きだ。
何というか・・・
心臓を取り出して、叩きつけたくなる」
と大袈裟にジェスターをしてみせた。
この歌は、愛する人に告白できない胸の内の叫びを歌ったもの。
この歌にイタリア人は深く反応する事を知った。
2週間ほど前、
シエナのある居酒屋で日本人数人で飲んでいたら、
店のスタッフから「日本の歌を歌ってくれ!」と言われた。
「ふるさと」「滝廉太郎の花」・・・・?
と候補を挙げてみたが、誰も歌詞を把握しておらず
終いにはテノールの歌声を持つ臨君がヴェルディ―の乾杯を披露した。
その後、何度か考える。
私が魂で歌いたくなる曲って、何だろう・・・?
イタリアは「アモーレ・愛」「マンジャーレ・食」
そして「カンターレ・歌」の国。
愛は単に、男女間の愛を言うのではなく、
家族、友達、動物など、広範囲にわたる愛を言う事。
食は、季節の旬の素材に思いを寄せ、
伝統料理、マンマの味を大切にする事。
そして、歌は、魂で歌う歌の事。
これを称して、「人生」と呼ぶのかな?
更に理解を深めた今日この頃です。
▼ディミートリ・ホロストフスキーの歌う「黒い瞳」
▼マリオ ランツァの歌う「Dicitencello Vuie」
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