人間臭いイタリア人
キャンティ地区の長閑な田舎道を走行していたら、
ポツリと信号が現れた。
私たちの前には巡回中のパトカーが走っていたけど、
赤信号を無視して先を行くパトカーの姿は、
次第に小さくなっていった。
「おいおい、パトカーが信号無視かよ」
パトリッツィオは舌を鳴らし、私は笑い声をあげた。
続けてパトリッツィオはテレビで観た一場面を語ってくれた。
「アパートで暮らす男性の隣の部屋に、
犬2匹を連れた男が引っ越してきた。
2匹くらいだったらいいか、と気にする事もなかったが、
そのうち子犬が産まれ、騒音に絶えられなくなった。
ついに、警察に通告に行ったんだ。
署長室をノックし、部屋に入ると、
太っちょの署長がふんぞ子り返ってタバコを吸いながら
“どうしました?”と聞いてくる。
署長の頭上には、〈禁煙〉の貼り紙があるんだよ。
犬の鳴き声で悩んでいる事を伝えると、署長は、
″犬を告訴するわけにはいかん“と答える。
そこで男は、“鳴き声がうるさいんですヨ”というと、
署長は、“その男が吠えてるんですか?”
とのんきに聞いてくる。
イタリアらしいシーンだよな~って苦笑したよ」
この後、目的のワイナリーに到着。
パトカーの信号無視の光景を話したら、
ワイナリーに居合わせたドイツ人女性も笑っていた。
私はイタリア人を前にして言った。
「イタリア人を馬鹿にして笑ってるんじゃないのよ。
茶目っ気を感じるの。
日本国民もドイツ国民も、規律を守るの。
街にはゴミがなく、
公共やご近所の迷惑を考えて、ルールを守る。
過ごしやすい反面、他人から見られる自分を意識して、
薄っすら緊張感に包まれるの。
それに比べ、イタリア。
日本からくるお客様の中には、
緩い行動をとるイタリア人に触れ、
しょうがないな、と思いながらも、
どこか開放感に浸る人もいるわ。
畑道に2台の車。赤信号を通過して何が悪い?
って構えるイタリア人に、人間臭さを感じちゃうのよ!」
ドイツ人女性は「そうそう!」と相槌をうち、
イタリア人たちは、複雑そうな笑みを浮かべていた・・・
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