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2018年3月

2018年3月28日 (水)

凛としたトスカーナの赤ワイン、見つけました!

クリスタルな輝きを放つキャンティクラッシコを発見!

作り手曰く、ここ、標高490メートルの高台で育つ葡萄の熟れ具合は、
ひと昔前迄は、特に際立って見事な出来ではなかったとのこと。

でも、最近の気候変動、そして
この土壌に適したクローンの研究、他の要因が加わり、
今では見事な葡萄が実るようになった。

凛としたキャンティクラッシコを、
猪のラグーのパスタと合わせてみた。

合わないはずがない!

手打ちパスタの持つモチモチ感と甘味、
猪の程よいコクは、
ワインの持つ声量と同等のボリュームがあり、
瑞々しい果実味が食を引き立ててくれる。

タンニンは3種の樽使いで仕上げたせいなのか?
ワインのストラクチャーを感じさせてくれるものの、
飲み口がとても良い。

これも、皆様にお届けしたい逸品です!

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夕焼け色のワイン

カステッリーナ イン キャンティにある
小さなワイナリー「チェンニーノ」を訪ねた。

到着すると、ドイツ人女性のニーナの案内で、
葡萄畑を散策した。

ニーナは優しさの中にもしっかりとした信念を持つ美しい女性で、彼女のあまりにもピュアな感性に、神々しいオーラすら感じた。

暫くすると、エノロゴのマッテオが現れ、
醸造の説明の後にロゼワインをグラスに注いてくれた。

「色は、玉ねぎね」

私はワイン関係者の間で使われる、
オレンジがかったロゼワインを表現する時のワードを口にしてみたけど、直ぐに言い直した。

「夕焼け色ね!」

するとニーナは 

「そうなの。ここから見た夕日、このワイン色をしてたのよ」

と言って、写真を見せてくれた。

続けて私は、テイスティングの感想を述べた。

「綺麗な酸味がもたらす清涼感は、今日の空気みたい。
 春先のヒンヤリとした空気。
 そこに咲く野の花のように、赤い香が可憐に漂っている。
 私、好きだわ!」

するとニーナもグラスを吸い込み

「私は海も感じる。ミネラル!」と言った。

パトリッツィオはエノロゴのマッテオに、

「彼女たちは、醸造のテクニックを消費者に伝えるよりも
 自然から受けるエモーションやハーモニーを
 伝えたがっているのさ」

と伝えると、マッテオは、

「このロゼワインには、
 ロレーナのバラ、という名がついている。
 ロレーナというのは、オーナーのお母さんの名前。
 お母さんはこのロゼが好きなんだ」

と教えてくれた。

この蔵のワインは、まだ日本に1本も渡っていない。

ここの葡萄たちが眺める夕焼け色のワイン、
是非日本の方にもお届けしたいな♪

ワインは生活必需品ではない。

でも、ワインは私たちの疲れた心と身体をほぐして、
美味しく癒してくれる。

それ故に

「この人といて、気持ちがいいな」と思えるような、

前向きで清々しい人が携わるワイナリーのワインを仕入れたい。

このワイナリーで作られるロゼとキャンティクラッシコ。

私のワインリストに登場します!

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シエナのベルト豚

私とパトリッツィオがレストランにいる間、
車内でお留守番していた愛犬モッラを解放したくて、
野道に車を止めた。

パトリッツィオは車内で本を読み、
私は景観に見とれながら坂道を登って行った。

ふと見渡すと、キャンティの景色を一望できる一画に、
チンタ(ベルト)をしたシエナの豚、
チンタセネーゼ達の姿があった。

私に気付くと、
ドド―ッと音を立てて遠くに逃げて行った。

驚かせちゃってごめんね・・・

食用になってしまうけど、
今日を長閑に暮らす彼等の姿に、少し安堵した・・・

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2018年3月27日 (火)

人間臭いイタリア人

キャンティ地区の長閑な田舎道を走行していたら、
ポツリと信号が現れた。

私たちの前には巡回中のパトカーが走っていたけど、
赤信号を無視して先を行くパトカーの姿は、
次第に小さくなっていった。

「おいおい、パトカーが信号無視かよ」

パトリッツィオは舌を鳴らし、私は笑い声をあげた。

続けてパトリッツィオはテレビで観た一場面を語ってくれた。

「アパートで暮らす男性の隣の部屋に、
 犬2匹を連れた男が引っ越してきた。

 2匹くらいだったらいいか、と気にする事もなかったが、
 そのうち子犬が産まれ、騒音に絶えられなくなった。

 ついに、警察に通告に行ったんだ。

 署長室をノックし、部屋に入ると、
 太っちょの署長がふんぞ子り返ってタバコを吸いながら
 “どうしました?”と聞いてくる。

 署長の頭上には、〈禁煙〉の貼り紙があるんだよ。

 犬の鳴き声で悩んでいる事を伝えると、署長は、

 ″犬を告訴するわけにはいかん“と答える。

 そこで男は、“鳴き声がうるさいんですヨ”というと、

 署長は、“その男が吠えてるんですか?”
 
 とのんきに聞いてくる。
 イタリアらしいシーンだよな~って苦笑したよ」

この後、目的のワイナリーに到着。

パトカーの信号無視の光景を話したら、
ワイナリーに居合わせたドイツ人女性も笑っていた。

私はイタリア人を前にして言った。

「イタリア人を馬鹿にして笑ってるんじゃないのよ。
 茶目っ気を感じるの。

 日本国民もドイツ国民も、規律を守るの。

 街にはゴミがなく、
 公共やご近所の迷惑を考えて、ルールを守る。

 過ごしやすい反面、他人から見られる自分を意識して、
 薄っすら緊張感に包まれるの。

 それに比べ、イタリア。

 日本からくるお客様の中には、
 緩い行動をとるイタリア人に触れ、
 しょうがないな、と思いながらも、
 どこか開放感に浸る人もいるわ。

 畑道に2台の車。赤信号を通過して何が悪い?
 って構えるイタリア人に、人間臭さを感じちゃうのよ!」

ドイツ人女性は「そうそう!」と相槌をうち、
イタリア人たちは、複雑そうな笑みを浮かべていた・・・

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2018年3月19日 (月)

年相応の眼鏡を買った

アンナとマウロ、パトリッツィオと私の4人で食事をした時
アンアがこんな事を言った。

「私たちね、最近、鏡を買ったの。長~い鏡。家を出る前
 その鏡で念入りに体をチェックしてから出るのよ!」

続いてマウロが悪戯そうに口を挟んだ。

「その鏡、5キロ少なく映してくれるんだ」

「あ~、それだったら念入りに見入るわけだ~」

と言って、私たちは笑った。

続いて私も、最近買った眼鏡の話をした。

「レンズの傷があまりにも目立ってきたから、
 新しく眼鏡を作ったの。眼科で度数を計ってもらい、
 今の視力に相応しい数値を出してもらったんだけど、
 それだと見えすぎるのよ。
 結局ね、処方箋通りの度が強い眼鏡と、
 今まで通りの度数の眼鏡、両方作ってもらったの。
 今かけているのは、昔の度数の眼鏡。落ち着くわ~」

そこにパトリッツィオが口を挟んだ

「名付けて、モネの眼鏡。
 度数が微妙にずれているから、
 世界がぼんやりと美しく見えるんだよな」

「そう!鏡を見た時、皺やシミに悩む事もないし、
 あなたの事も素敵に見えるわ!」

時が進むにつれ、皺やたるみ、白髪などが増えていく。

どんなクリームを塗ろうが、サプリを試そうが、
自然の法則には逆らえない。

せめて、気持ちをくすませてしまわぬよう、
鏡や眼鏡をカモフラージュして
能天気に生きる今日この頃です!

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2018年3月17日 (土)

外で過ごす季節がやってきた!

経理担当者との話しを済ませ、商工会議所を出ると、
そこにパトリッツィオの車があった。

愛犬モッラが後部の窓から身を乗り出して
「早く乗った~♪」と私を催促している。

「迎えに来てくれてありがとう!
天気が変わらないうちに散歩に行こう~♪」

イタリアでは、3月を「狂った3月Marzo e’ pazzo」と呼ぶ。

今のところ青空が広がっているけど、突然に雨が降り出し
また、気まぐれにお日様が顔を覗かせる、
そんな日が続いている。

「その前に、ちょっと銀行に寄っていく」

そう言って、パトリッツィオは銀行の駐車場に車を止めた。

私とモッラで待っていたら、彼はあっと言う間に戻ってきた。

「あら、早かったわね!」

「そうさ。銀行強盗するのに、時間はかからないからな」

私はクスっと笑った。

「能天気な犬とアジア女性を乗せて逃走?」

「コメディーだよな。半分壊れかけた車での逃走。
 すぐに捕まっちまう」

車を走らせ、山道に入り、私たちは森を散策した。

数日の雨で湿った土は、絨毯のように柔らかかった。

土に還ろうとしている秋冬の落ち葉、
そして、誕生したばかりの緑の草に、
季節の移ろいを垣間見た。

遠くからモッラが私をめがけて走ってくる。

私の白いジーンズに小さな茶色い染みが沢山できて、
私は、百一匹わんちゃんのダルメシアンに変身した。

ゆっくりと気温が上昇し、
自然の中で過ごすのが気持よい今日この頃です。

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2018年3月15日 (木)

神様のご計画

シエナに戻った翌朝、エリーナとお茶をした。

ウクライナ出身の彼女の笑顔は素敵で、
透明感と優しさを帯びた表情はルノアールの描いた
「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」を彷彿させる。

「御帰りなさい、キヨミ!日本はどうだった?
 お父さんの様子はどう?」

「お陰様で、とても有意義な滞在だったわ。
 お父さんの状況は変わらないし、
 この先も良くなっていく事はない。
 でもね、私もお母さんも、考え方を変えたの。
 昨日に引き続き、
 今日という日をプレゼントされる事に感謝してる」

「そうよね。時々立ち止まって、
 今、自分が得ているものを改めて感じる事、大事よね」

私はしばらく話を続け、エリーナはいつものように
柔らかい笑顔で耳を傾けてくれた。

「キヨミ。今度は私の事を話すわね。
 数日前、猫が死んでしまったの」 

私は動揺し、胸が締め付けられた。

彼女は、昨年の12月にグレー色をした愛猫を失い、
その後すぐ、家庭の事情で猫が飼えなくなった家族から
茶色の猫を引き取ったばかりだ。

「息苦しくしていたから、獣医さんに連れて行ったの。
 あの子、心臓の病気をもっていたのよ。
 その日は400ユーロを支払ったけど、
 いくらだって払う覚悟でいたの。
 どんな介護も受け入れようと思った。
 でも、駄目だった」

私は涙目になりかけたけど、
彼女はしっかりと話しを続けている。

「最初はね、私のせいだと思った。
 ここ数年、家族に不幸が続いてるでしょ。
 きっと私には不幸をもたらす何かがあるんじゃないか?
 って自分を責めたわ。
 あの猫がうちにやってきた時、
 家にある悪い空気に包まれたから、
 死んでしまったんじゃないか?って。
 でも、それは違うな、って感じたの。
 あの猫ね、私の家に来てから、
 生まれて初めて、外の世界を知ったのよ。
 庭を興味深々に歩いていた。
 私たちは一緒にソファーに横たえて、
 猫は喉をグルグルとならしてた。
 神様がね、残された時間、幸せに暮らせるように、
 あえて、私たちの家によこしてくれたの。
 もう猫を飼うのはやめよう、と思ったけど、考え直した。
 私の家、猫がいないなんて、ありえないのよ。
 事情を抱えた猫を、2匹以上は引取ろう、
 って旦那と決めたの。
 そしたらキヨミ、また、見に来てね」

彼女はいつも明るい話題を口にする。

時々、困難な時にある話を聞くけど、
その状況を受け止め、乗り越えようとする彼女の哲学には、いつも感銘を受ける。

カプチーノを飲み終え、
私たちは、歌の先生、クララの家に向かった。

エリーナはピアニストだけど、
数年前から声楽を習いはじめた。

そんなエリーナのピアノ伴奏に、私も同行している。

エリーナが発声練習を終えると、私はピアノについた。

「言い訳させて!
 私、ここ数週間、全く鍵盤に触れてないの。
 でもね、二人といたいから、来ちゃった!」

すると二人は

「いいのよ~、そんな事。
 キヨミはいつでも歓迎なんだら~」と言ってくれた。

クララだって悩みを抱えているけど、笑顔が大きい。

年上の女友達に触れ

私も彼女達のように、友達に清々しい元気をチャージ出来るような女になりたいな、と思った今日この頃です。

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2018年3月14日 (水)

日本帰省 地元で女一人飲み その3

今回の日本帰省では、お酒を良く飲んだ。

都内で誰かと飲んだ日は、
終電間際の電車で実家の駅に到着し、
それから一人飲みをして家路に着いた。

飲み会では
「帰りの電車で気分が悪くなったらどうしよう?」
という不安が付きまとうので酒の量が控えめになる。

だから、実家の駅の到着すると、
締めのお酒を飲みたくて、ふら~っと立ち寄る事になる。

この日も0時過ぎ。

チェーン展開している居酒屋に入ってみた。

「すみません、まだ、やってますか?」

「はい。2時までやってます」

おじちゃん店長の笑顔に導かれ、カウンター席に着いた。

店内には男性グループ客の、酒で勢いを増した声が高々と響いていたけど、長い髪を結わいたアルバイトらしき女性から御絞りを受取ったら、すっかり気持ちが落ち着いた。

「熱燗ください。つまみは刺身の7点盛にしようかな?」

すると彼女はマニュアル通りに、
「すみません。こちらのメニューは2名様からなんです」
と申し訳なさそうに答えた。

 「分かりました。そしたら~、
 一人前でも頼めるお刺身って、どれですか?」

とメニューを開いて尋ねると、
カウンター向かいの厨房から女性が顔をのぞかせた。

「大丈夫ですよ。7点盛り。一人前でお受けしますよ!」

厨房の女性は私と同い年くらいで、
深夜だというのに、これまでの疲れを微塵にも見せず、
穏やかな笑顔で優しい言葉をかけてくれた。

おじちゃん店長は私の後ろを通り過ぎる際、
「お酒が好きなんですね~」と笑顔で声をかけてくれる。

店の人は、適度な距離を保ちながら接してくれるけど、
私を気にかけてくれる心の距離はぐっと近くにある。

真夜中だというのに、
刺身と焼き鳥、そして熱燗と冷酒を堪能し、
最後にお茶を頼んだ。

おじちゃん店長は

「どうぞ、ゆっくりと、何杯でも飲んでってください」

と声をかけてくれた。

席を立ち、御会計に向かう前に厨房の女性に、

「1人前で対応してくれて、ありがとうございました」

と言うと、彼女は

「大した事してないです。
 盛り付けの見栄えが悪くなってしまい、すみません」

と柔らかく返事をしてくれた。

おじちゃん店長の

「ありがとうございました。お気をつけて」の声を心で受け止め、心の筋肉が和らいで、気持ちが軽やか。

全ての人に好かれる店、全ての店に好かれる客、
というのはないと思う。

人それぞれが感じる居心地の良さは色々とある。

私の場合、お風呂に浸かるように、心をほぐしたくて 
もう1軒を求めてしまう女一人飲みの店は

優しく迎えられ、居心地が良い事。
緊張がほぐれる事。
そして食事とお酒を、ゆったりと楽しめる事。

お店の人間力にかかってくる。

おじちゃん店長は、少し前に倒れて入院し、
復帰して働き始めた事を後から知った。

だから、足を引きずるようにゆっくりと歩いていたんだ。

相手の立場に立つ事にエネルギーを注ぐ店。

「一生懸命に働くって、美しいな」と感じた今日この頃です。

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日本帰省 地元で女一人飲み その2

地元の駅の南口には、
カウンターだけの昭和が薫る居酒屋がある。

そして北口には、洒落たバーがある。

居酒屋には、昔からこの土地に住む客が通っていて、
御客同士も名前を知っている。

マスターもママさんも、御客に媚びるどころか、
御客より堂々とした態度で客に接している。

10年前に越してきた私は、この町内会的な空間で、やや大人しく飲む方がいい。

一方、北口のバーは36歳のハンサムな
(今はイケメンと言うのだろうけど・・・)マスターがいて、
今年で4年目を迎える。

彼の声はよく通り、動作にもキレがある。

御客の話を笑いで盛り上げながら、
礼儀もしっかりとしている気持ちのよいバーだ。

南口の居酒屋は、訳あり身の上話も似合うけど、
このバールにはそれが似合いそうもなく、
カウンター席には、20代の女性から60代らしき男性まで、
幅広い層が一人飲みにやってくる。

ネットで検索しても出てこない、入りにくそうな小さな店。

2つの店は全く違う雰囲気を醸し出しているけど、
どちらの店も常連客にしっかりと支えられ、
オーナーに見合った客が引き寄せられている。

北口のバーでズブロッカを飲みながら、ふと思った。

「もう一つ、ブログを開設しようかな?」
 
本物のお店を構える事は出来ないけど、ブログを通じて
皆様に訪れてもらうワインバーkiyomi的なブログ。

お酒の席での話題だから、記事もそれなりに緩い。

でも考えてみたら、
お店のマスターやママさんは、お客様の話に耳を傾け、
癒したり、元気を与えたり、という役目があるものだ。

私が一方的に話題を提供するのは、
ちょっと違うかな?

もし皆さんが、飲食のオーナーさんになるとしたら、
どんなお店をイメージしますか?

私の場合「今日のワイン」をグラスで提供する
小さな屋台かな~(^^♪

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日本帰省 地元で女一人飲み その1

昔の会社の同僚に誘われ、
彼の部下との食事会に参加させてもらった。

あまりにも楽しくて、店を出たのは0時近くだった。

駅に到着すると終電が行ってしまった後だったので、
タクシーに手をあげた。

私はスマホを持っていないけど、
運転手さんが時刻表を調べてくれて、
「上野から最終の常磐線に間に合いそうです」
と教えてくれた。

タクシーを降りて走り、終電に間に合ったけど、
行先は私の家の2駅手前だった。

終点で扉が開くと、皆、タクシー乗り場めがけて走る姿は、まるでバブル期そのもの。

長いタクシーの列を眺め、思わずほくそ笑んだ。

「真夜中に長時間並ぶと風邪ひいちゃうかも。
 小一時間飲んでから戻ってこよう」

そう気持を切り替え、飲み屋のある方面の、
野良猫だけが知るような小さな路地に足を踏み入れた。

小さな店の前で
「あら、一人? 入っていきなさいよ」
と長髪をカールした大柄の女に声をかけられ、
そのまま店に入った。

席に着くと、私の左の丸椅子に大柄の女が座った。

女の眉毛はマジックのようにくっきりと描かれ、
真っ赤な口紅をして、私の2倍ほどの胸もある。

女に変身した大柄の女が、狭い店で肌が触れるほど近くに座る、その圧迫感は大きい。

右側の女性は、お酒ですっかりハイ状態。

「名前は~?」と聞いてくるので「キヨミです」と答えると、
「キヨミちゃ~ん」と言って抱き着いてきた。

でも、他の客はそこまでの癖がなかったので、
とりあえず、居てみる事にした。

「キヨミちゃん、何か歌いなさいよ~」
と両端から言われるので、何か歌うしかない。

この空間に、松田聖子や今井美樹は絶対に似合わない。

そこで、中島みゆきの別れ歌にリクエストを入れた。

曲が流れると、大柄の女が

「あら~、中島みゆき。こうやって歌うのよ~!」

と言って、鼻をつまみながら、モノマネをしてみせたので
仕方なく、私も鼻をつまんで、それっぽく歌ってみた。

この大柄の女は、近くにあるゲイバーのママさんで、
お店の合間に、ここで飲んでいるらしい。

他の客は、カラオケで下ネタを発したり、
大きな声で甘えたような声を発している。

私と言えば、
全然酔えないどころか、だんだんと醒めていく。

御客が入ってくるたびに、私は一つずつ席をずらされ、
気付いたら、一番壁側に追いやられていた。

私はそっと御会計を済ませて、外に出た。

「こういう世界もあるんだね・・・」

もう2度と踏み入る事のない店。
翌朝、大柄の女の顔が勝手に脳裏に浮かんできた。

イタリアとの時差がなかなか抜けないけど、
大柄の女の顔も、頭からなかなか抜けてくれない・・・

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2018年3月 8日 (木)

小雨ふる昼過ぎに

小雨が降るお昼過ぎ、
施設にいるお父さんを訪ねた。

カーテンから差し込む琥珀色の光が柔らかくて、
クラシックの音色に浸りたくなった。

バイオリンのCDをかけると、
お父さんは目をつむったまま鑑賞し
「珈琲が飲みたいな~」と言った。

私は1階の自販機に買いに行った。

昔、日曜の昼過ぎ、
お父さんはいつもカーテンに頭を向けて寝転び、
珈琲を飲みながらクラシックを聴いていた。

今、カノンとかアヴェ・マリアの曲がこの部屋に流れて
何だか気持ちいい。

頭の中で先の事を考え始めると、
この空気が覚めてしまうけど、
こうして今を感じると、
40年前と何も変わらない光景がここにある。

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