小さなチーズ工房
パオラと一緒に近所のチーズ工房を訪れた。
ドアをノックし続けても誰も出てきてくれない。
「キヨミ、本当に人がいるの?」
「ええ。いるはずよ。今朝ここの主人と話した時、
18時に来てくれって、言われたのよ」
待つこと15分。
今朝と同じく、工房の主人は白い作業服で現れた。
「ボナセーラ。リコッタチーズを買いに来ました」
すると主人は
「残ってたら販売できる」
と言って倉庫のような扉を開け、私達も続いて中に入った。
「私は、小さなサイズを4つ欲しいわ。
大家さんにもお土産で渡したいし。パオラ、あなたは?」
「私は一つでいいわ」
すると主人は
「全部で4つしか残ってない」と言ったので、
私は3つ、いただく事にした。
私の家から車で5分ほど走行すると、
ワインの名醸地キャンティクラッシコのゾーンに入る。
世界的に有名な作り手、
サンフェリーチェやSan Giusto a Rentennano では、
ワインのテイスティングに添えるおつまみとして、
ここのチーズを使用している。
レストラン関係者の間でも、ここのチーズの評判は高い。
工房の主人は職人気質で、
人と話すのが苦手、といった感じだ。
接客にも、販売カウンターや表の看板にも、
その不器用さが漂っている。
でも、彼が手掛けるリコッタチーズはいつも予約で一杯だ。
イメージ広告や接客態度、
販売のテクニックを一切まとうことなく、
チーズ作りにもくもくと取り組み、
その部分だけで顧客を惹きつけている。
この春に参加した小さな規模のワイン生産者の試飲会でも、同じ気質の作り手を見かけた。
小さな作り手は、
限られた時間の中で様々な工程を追っている。
今の気象条件から受ける災害に立ち向かいながら、
マニュアル通りに運ばない世界で、
生産までこぎつけるのに精一杯だ。
彼等の外見は素朴に見えるけど、
全労働が注がれた品質の純度は非常に高い。
私も小さな事業を抱える者として、
何を優先順位にもってくるか? 改めて考えさせられた。
やるべき事をもくもくとやっているだろうか?
販売戦略やテクニックに時間を割こうとしていないだろうか?
世の中には、一度脚光を浴びて、
その話題性の上に活躍を広げる人もいる。
正直言うと、その手の輝いた人に憧れたりする。
でも自分は、このチーズ工房の主人のように、
一見地味に、でも、やるべき事をやり、
一定の方から常に支持を得られる、
というやり方に共感を覚える。
ソーシャルメディアで色々な方の活躍を目にしながら、
自分のやり方に疑問を持ったけど、
最近、霧が晴れて、進むべき道が見えてきました!
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