お父さんのメンテナンス
「あれ、電話がおかしいな。
ちょっと、キヨたん、見てみて」
「お父さん、
一度、コンセントを抜いて、また入れてみて」
「そう? あ、正常に戻った」
実家では、母が何でもテキパキとこなす。
最近は、冷凍庫の調子がおかしかったが、
マニュアルをみながら解決させた。
そんな母が今日から1週間、入院の為に不在となった。
私は半年に一度の帰省で、両親と過ごすけど、
父に関しては、少しずつ、
生活能力に錆がついているように思える。
早めの夜食を終え、
お互い、「お休み~」と言い合った頃、
マンションのチャイムがなった。
お世話になっている方から、
新鮮で美味しそうな秋刀魚の贈り物だった。
氷水が入った発泡スチロールの箱は、
かなり頑丈にテーピングされている。
「キヨたん、はい、この蓋、開けてよ」
「ううん。お父さんが開けて! はい、ハサミね」
父は、「なかなか、開かない」と奮闘しているが、
私は、違う事で忙しそうなふりをした。
箱の中には、威勢のよい秋刀魚が並んでいる。
「明日と明後日の分を残して、冷凍しておこう!
お母さんが戻ってきたら、食べれるからな!
冷凍分の秋刀魚、頭を落としとくか?」
「そうね。じゃあ、お父さん、切って」
その後、私は腸を処理し、父に1本ずつ渡し、
父は、サランラップに巻いて、冷凍庫に納めた。
「やっと終わったな~!」
父の声は、晴れ晴れとしていて、明るい。
父には元気でいてもらいたい。
自分の意志で毎日を楽しんでもらいたい。
だからあえて、父に動いてもらう。
お母さんの手術は、
幸い、命に関わるようなものではない。
母が不在の1週間。
それは、今まで何でも母にやってもらっていた父の
手と頭の錆を落とし、油を注ぎ、
円滑な日常生活へ向き合うためのメンテナンスです!
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