自分たちにとっては、大成功!
コンサートの翌日、クララの家を訪ねた。
「クララ、昨日は私の人生の中で、
忘れられない日になったわ!
観に来てくれた友達も
“ とても良かった ”って言ってくれてる!」
クララは、昨日のクララとは別人のように穏やかで、
私たちは、遠い日を懐かしむように、
愛おしく写真を見つめながら、あれこれ語った。
「私の先生は、こう言ったの。
教える者は、生徒の声に惚れる事が大事だって。
私は今でも、その教えを守ってる。
だから、レッスンをする時、何時間で幾ら、とか
関係ないの。
私が惚れた声に対しては、とことん付き合うわ」
クララは、教え子について、とにかく褒める。
それは、先生が生徒を評価するのではなく、惚れるから、自然と、良い点を口にしたくなる結果なんだ。
クララは皆に対して優しいのではなく、
肌の合わないタイプもはっきりしている。
いつでも、「私」「私」と自己主張の強い人や、
出世願望を抱き
ライバル精神をもって他人を悪く言う人、
人から格好良く見られようと、
自分を等身大より優れた人間に見せるアプローチに長けた人、‥等
この手の人たちと接していると、消耗してしまう。
クララが好きな人、それは、
謙虚で純粋で、一所懸命な人。
「自分のやるべき事に一生懸命 没頭していれば、
自然と周囲が認めてくれるのよ!」
クララの言葉を、私は心で聴いた。
「私は自分の携わるワインやオリーブオイルについて
やるべき事に没頭しているかな?」
「私は、人からよく見られようと
飾りすぎたアピールをしていないかな?」
そして、お客様に惚れて、満足してもらいたい、
と思える事が大事であって、その気持ちを守るには、
自分の気持がすり減ってしまう事からは遠ざかる決心も大事なような気がしてきた。
昨日のコンサートについて、
一部の人が酷評を流していることも知っている。
でも、私たちにとっては、「大成功」であった。
それは、一人一人が上手く歌えたからではなく、
このコンサートの一員でいられる事に誇りを抱けたから。
クララは、4つのオペラについて、
それが書かれた時、モーツァルトはどのような生活を
送っていたか?オペラのあらすじ、主人公について、
そして、歌い手の紹介などを盛り込め語り、
畑にモーツァルトを聞かせながら葡萄を育てる
ブルネロの作り手は、音楽の力について語り、
シエナ圏のボランティア協会の会長も、
ボランティア活動について語りながら、
歌と語りと、そして子供たちのダンスでコンサートは進行した。
病院ボランティアのスタッフや、会場を提供してくれた町内会も、惜しみなく協力してくれた。
コンサートの最中、緊張している私に、
ボランティア協会の会長夫人が寄ってきて、
頬をつまんでウインクした。
歌い終わって退場する中国人テノールのサベリオに、
私は思いっきり拍手を送った。
皆が心を通わせたコンサートだった。
そんな温かい空気に触れ、
居心地良く感じてくれた観客もいれば、
そうでない人もいる。
今まで、コンサートというと、一流の技を取得した者
のみが、完璧なテクニックをもって音楽を披露する、
と思っていたけど、
会場全体をハーモニーで包み込む、という構成も、
ある種のコンサートなんだな、と体で感じた。
尊敬できる人との出会いは、本当に財産です!
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