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2015年2月21日 (土)

乗り込む!

クララから電話がかかってきた。

「キヨミ、カルロ氏の息子と連絡がとれないかしら?
せめて、息子に登場してもらわないと・・・」

カルロ氏とは、ブルネロの作り手のオーナーで、
世界のワインファンにはちょっと知られた人物だ。

クラシック音楽の愛好者で、
こと、モーツァルトが大好きな彼は、
1日中、葡萄畑にモーツァルトを聴かせている。

最初は、彼の遊び心で取り組んだことだけど、
スピーカーのBOSE社が彼に共鳴し、
今では良質のスピーカーが葡萄畑を囲んでいる。

モーツァルトが流れる畑では鳥がさえずり、
遠くに羊の姿があり、
楽園のような光景が広がっている。

そんな畑に、ソプラノ歌手であり、これまで沢山の
クラシックコンサートをシエナでオーガナイズしてきた
クララを連れて行ったのは、昨年の1月2日。

クララとカルロ氏は意気投合し、
「是非、一緒にコンサートをしましょう!」
と厚く挨拶を交わした。

少し前まで、シエナでは、市や銀行からの助成金で
コンサートが成りたっていたが、
この不況で市営の施設も閉鎖に追い込まれていく中、
コンサートの企画はかなり難しい。

その中で、クララは会場を見つけ、参加者を集い、
いよいよ、翌日にコンサートが行われる。

演目は、全てモーツァアルト。

プログラムでは、13歳の少女が、
モーツァルトが初めて書いたとされるメヌエットを奏で、その旋律に合わせ、子供たちがダンスを披露する。

そして、ドンジョバンニ、フィガロの結婚、
コシ・ファン・トゥッテなどのアリアが歌われるが、
メインは「魔笛」。

カルロ氏が手掛けるワインの中に、
「魔笛」と名付けられたブルネロがある。

一級畑で育った葡萄のみを使用して作られた格別なブルネロで、ラベルには、魔笛のオペラシーンが描かれている。

コンサートでは、カルロ氏にも登場してもらい、
モーツァルトの音楽とワインなど、
彼の心に抱く世界を語ってもらう事になっている。

そして、魔笛のアリアに合わせて、
葡萄の葉の飾りを付けた子供たちがダンスをする。

しかし数日前、カルロ氏から
「インフルエンザにかかって、行けないかもしれない」
と連絡がはいり、
コンサート前日になっても連絡が入らず、
クララは心配を隠せずに電話をかけてきた。

「クララ、今から息子のウリッセに電話をしてみるわ。
 そして、また折り返すわね・・・」

ウリッセの携帯に連絡を入れると、
留守電になっていた。

そこで私は、
この農園のエノロゴ(醸造担当者)に連絡を入れ、
明日のコンサートについて説明をした。

「21日はブルネロの試飲会があって、
 モンタルチーノの村には
 世界からジャーナリストや関係者が集まる日なんだ。
 カルロが病気なので、その代りに、
 息子のウリッセが対応しなければならない。
 だから、ウリッセがシエナに行く事は
 出来ないと思いますよ」

「そうですか・・・
 なら、あなたが来てくれる事は出来ますか?」

「私も忙しくて・・・
 すみません、お役に立てなくて」

その後、事務所の女性とも話をし、畑で働く誰かしらに来てもらえないかどうか?お願いしてみたが、答えは「NO」だった。

予想通りの答えだった。

ブルネロの試飲会とコンサートの日がバッティングしている事自体、致命的だ。

「クララ、結果から言うわね。無理みたい。
 息子のウリッセも仕事の都合で来れないらしい。
 その他、農園に携わる人も無理・・・
 私ね、昔 カルロ氏が畑を説明してくれた時、
 その様子をビデオに撮ったの。この映像を会場で流す、っていうのはどうかしら?」

「そうね。それも出来るかどうか、やってみましょう。
 そして、最後には、私が説明をするわ」

クララは、お酒が飲めない体質で、
ワインの事は全く知らない。

明日のコンサートに控え、やる事が沢山ある中、
彼女が、ワインの説明をする、と言い切った。

この時私は、クララの強さに、
更なる奥深さがある事を知った。

コンピュータに向かい、ビデオをROMにコピーしていると、息子のウリッセから電話がかかってきた。

「キヨミ、元気?」

「元気よ! 今、モンタルチーノは忙しい時期ね。
 醸造者から聞いたわ。
 無理を承知でのお願いなんだけど、明日、あなたが
 シエナに来てくれる事、出来ないかしら? 
  本来だったら、あなたのお父さん、
  カルロが来てくれるはずだったんだけど・・・」

「ちょっと待って。
  父は明日、コンサートに参加するつもりでいるよ」

「えッ? それ、本当?」

「ああ。さっきのランチでも、そう言ってた」

私はかなり動揺して、その答えを封じ込めたかった。

「クララはたった今、心配して電話をしてきたの。
  クララの電話番号を言うから、
  直ぐ彼女に連絡を入れて頂戴!」

それから10分が経ち、
クララからも電話がかかってきた。

「キヨミ~ 全て解決! 
  じゃ、後でリハーサルで会いましょう! 
 ハ~ハ~ハ~!(笑)」

カルロ氏はまだ体調が回復していないのに、
コンサートに出てくれる。

これもまた凄い!

体調が優れなくても動くバイタリティーや、
クララのように、
「最後は自分で、何とかする」
と腹をくくる様子を見ていたら、
私にも元気が湧いてきた。

「当日、緊張して指が動かなかったらどうしよう
 怖い」
という臆病な空気が薄らいだ。

私も、乗り込みま~す!

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