今日の冒険
アンナとマウロ、そしてパトリッツィオと
アペリティーヴォを楽しんだ。
1月だというのに暖かく、外のテーブルで過ごしたけど、1本のワインが空になる頃には、糸杉の輪郭も分からなくなるほど辺りはダークブルーになって、冷たい空気が漂い始めた。
「さて、モッラも車で待っていることだし、
もう帰らないとね」
私たちはまた近いうちに会う約束をして、車に戻った。
さっき川遊びではしゃいでいたモッラの毛は、
まだ少し湿っている。
車を走らせ、3分ほど過ぎたところで、
「見て見て、ほら!」とパトリッツィオが口走る。
彼の視力は抜群で、
遠くの林に潜む鹿や路上にいる小さなカエルまで、
何でも目に入る。
暗がりの中を走り抜ける影を見て、
私たちは子鹿だと思った。
しかし影は草むらに逃げこむことなく路上をうろつき、
そのまま直進し続けた。
そして、道路脇には綱を持った男性の姿があった。
車内で大人しくしていたモッラも興奮して吠えている。
犬の言葉は分からないけど、
モッラも、私とパトリッツィオと同じ気持ちでいる。
パトリッツィオは車の窓を開け、
逃走している犬にモッラの臭いを感知させ、
なんとか寄りつかせようとした。
田舎道だけどカーブがあって、
前方後方から車がやってくる。
ふと気づくと、路上の犬は2匹になっていた。
「あれ、2匹の犬が逃げてたのかしら?・・・
あっ、モッラだ!」
モッラはいつの間にか車の窓からピョンと飛び降り、
失踪する犬と路上でじゃれ合っている。
このままじゃ、引かれちゃう。
「モッラー、モッラー」
大声で呼ぶと、モッラは私を目がけて猛スピードで戻り、その後を、失踪犬がついてきた。
戻ってきたモッラは、いつもの癖でゴロンと横になり
一瞬お腹を見せると、また興奮して走り出そうとしたので、私はもがくモッラにかぶさり、羽交い絞めにした。
そして、近づいた疾走犬はまた向きを変えて走り出し、
とうとう姿が見えなくなってしまった。
綱を持った男性が私たちの車に追いついた。
彼もかなり動揺している。
「名前は何ですか? 叔父さん、犬の名前!」
「知らんのだよ。今朝、友達から預かったばかりで
飼い主は今日から旅行に出てしまって・・・」
「犬を見つけて捕獲することが出来たら、連絡します。
電話番号を教えてください」
そう言って、パトリッツィオと男性は
お互いの電話番号を携帯に入力しあった。
帰り道、私達は一縷の望みを抱きながら観察したけど、
影は現れることなく、私の家に到着した。
「犬、家に帰ってくれるといいな~」
「帰れるさ。心配なのは、車に引かれないことだ」
するとその時、
パトリッツィオの携帯がブルブルっと振動した。
「あ~、はい。ふん・・・ファンタ~スティコ!
si, si....美味しいビスケットをやってください
ボナセーラ」
さっきの男性からの電話だという事は、
私にもすぐに分かったし、
パトリッツィオの「素晴らしい!」との相槌から、
良い知らせだという事も分かった。
電話を切るパトリッツィオに、
「それで、それで~!」と迫ると、
「キヨミに色々な想像をさせてあげるから、
言わな~い」とじらす。
私は大声をあげて「教えてよ~!」を繰り返しながら、
彼をゆさぶった。
「今日の11時に犬を預かった。そしてランチをして
夕食を食べる前に、散歩に出かけた。
最初は大人しくしていたけど、
車の通りがある道路に出た途端、
首輪をふりきって、逃げ出した。あの後、
彼が家に戻ると、犬は門で待ってたんだって。
そして、犬の名前はミルコだそうだ」
私は、嬉しくて大きく叫び、
隣でパトリッツィオも
「感激するな~」といって涙をぬぐった。
「きっとモッラに言われたのね。
家に帰りなさいって!」
ハプニングがハッピーエンドで終わり、
さっきの出来ごとが冒険になった。
喜びを皆で共有できて、いい気分です!
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