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2014年8月28日 (木)

今がスペシャル

行きつけのバールがバカンスを終え、
やっと開いてくれた。

このバールには、
近所の人が入れ替わり立ち代わりにやってきて、
珈琲にかこつけては世間話をし、
「じゃあ、またね」と去っていく。

私とパトリッツィオはテーブルに腰掛け、
パニーノとワインを注文し、私は、今日の出来事や
明日にやろうとしている事などをお喋りし続けるけど、
彼は私の話を聞いてたり、聞いてなかったりで、
新聞や他の客の話題にポーンと飛び乗ったりする。

このバールを経営するのは、
私と同い年のエルガとガブリエーレ。

彼らは来月に結婚する。

新聞に目を通していたパトリッツイオは顔をあげ、
「おいおい、新聞には載らないでくれよ!」と言った。

今日の新聞にも、
旦那が妻を殺害した事件が掲載されていた。

グラスワインを飲み干した頃、
電動車いすに乗った男性が訪れ、
私たちにも「ボンジョ~ルノ」と挨拶をした。

「聞いたよ。君たちは、9月に結婚するんだね。
 実は、僕は明日、結婚するんだ!」

エルガはカウンターから出て、
店の入り口で男性と話をしている。

彼が立ち去ると、エルガは私たちに
「彼、SLAなのよ。長く生きられない」と言った。

SLAとは、筋萎縮性側索硬化症のことで、
筋肉を失い、終いには喋ることも出来ず死に至る難病。

普通、結婚というと、
若い夫婦が将来を築いていくイメージがあるけど、
彼の場合は、全てを受け止めた奥様と、
今、一瞬一瞬を、大事に感じながら生きていく。

私は思わず泣いてしまい、パトリッツィオもエルガも、
それぞれ、言葉にならない感情を味わっていた。

パトリッツィオの車の中では、
7か月になる愛犬のモッラちゃんが待っている。

店を出て、私たちは雑木林で車を止め、
モッラちゃんを走らせた。

松ぼっくりを投げると、
モッラちゃんが凄い勢いで追いかけ、
それを加えて戻ってくる。

土の湿った匂い、松ぼっくりの触感、
ちょっと走って疲れる感覚...

「今」が、すっごくスペシャルに思えた。

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