スローライフとスローフード
ブルネロの作り手宅に到着した時、
コック歴45年のレーダおばさんは、
アーティチョークの下ごしらえをしていた。
「4月1日頃から収穫を始めたけど、
これが畑に残っている最後ね。
綺麗とは言えないでしょ~・・・
ルチアは捨ててしまいなさいよ、って言ったけど、
そぎ落としたら、少しは食べれるところが残るわ」
と言って、皮をむいて小さくなったアーティチョークをレモン水に入れていた。
「ご飯よ~」
ルチアママの号令で、私達はテーブルについた。
小麦粉と卵でこしらえた生パスタも手づくりだけど、
ソースのラグーも、
彼らが飼育している豚が使われた自家製だ。
あまりの美味しさに、おかわりをすると、ルチアママは、唐辛子入りのオリーブオイルをかけてくれた。
同じ料理でも、
唐辛子とオリーブオイルの刺激が加わると、
味に深みが出て食欲が増進される。
この後、ソーセージ入りの卵焼きと、
自家製の猪の生ハムが並んだ。
本来、猪のハムには、脂身の部分がない。
でも、このハムに脂身があるのは、
豚と猪のあいのこだから。
「昼になると、豚達は山にピクニックに行くのさ。
そこで、お母さん豚は猪に出逢い、
赤ちゃんが生まれるんだ。」
と語ってくれた。
この脂身はさっぱりとしていて、いくらでも食べれる。
豚ちゃん達は、好きな時に山に出かけ、猪と恋に落ちて、この農園に戻ってきて、ご飯を食べるという、長閑な生活をしているけど、最後は、食卓に並んでしまう。
いつもだったら、
「豚ちゃんが可哀想・・・」と思うところだが、
今回は、何かがまとまって感じられて、
それを当然のように受け止めている私がいる。
男性が愛情を持って動物を世話し、果実を栽培し、
女性はきちんと、それを料理する。
昼食は13時からと、きっちり決まっていて、
農園の舵をとる息子のエリアが、テーブルの上座に着き、
ルチアママは下座に着いて、
料理が変わるごとに、皆の皿を取り替える。
食事中、料理の写真を撮ることが、
とっても不自然なことに感じられて、
シャッターを切るのを止めた。
肉、野菜、卵、オリーブオイル、ワイン、果物は自家製。
共働きで、
出来合いの御惣菜や外食に依存する率が高くなる中、
こういう家族の食事の風景が、神聖に思えた。
家族の絆、家族の健康、スローフード、スローライフ
そんな言葉を点で捉え、
それぞれの定義を探る必要はない。
ここにいると、それらが一つの空間に当たり前に存在していることが肌で分かる。
私は一人暮らしで、一人で食事をすることが多いから、
このランチの印象が、とっても味わい深く感じられた。
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