私流、自分磨き
郵便局に行くと、
いつものように、局員は笑顔で迎えてくれた。
「キヨミ、久しぶり! 元気だった?
あの中国人、毎日、30箱は発送するようになったよ。
朝、郵便局に寄って、それから、ボローニャや
フィレンツェ、ローマのアウトレットに仕入に行く。
そこで商品の写真を撮り、直ぐにネットにアップ。
そして、翌日には、発送。
200ユーロで仕入れるカバンを倍で売るのさ。
俺が中国語を喋れたら、
俺も同じ事をやれるんだけどな~・・・
キヨミ、日本人はブランド買わないのかい?
キヨミの仕事は最近、順調かい?」
私は動揺した。
この郵便局に通う中国人男性は、
最初、週に10箱くらいしか発送していなかったけど、
今では、凄いボリュームになっている。
自分のキャパがとても小さく思えて委縮した。
(ブランド・・・お金儲け・・・)
この前、友達とランチをする事になり、
私はある食堂を指定した。
どんなにお腹いっぱいに食べても、10ユーロでたっぷりお釣りが来るセルフサービスの店で、厨房では、シエナのオバチャンが料理をこしらえている。
友達は、レース編のカーデガンと
つばの広い帽子をかぶってやってきた。
「あら、どこのお嬢さんかと思ったわ! 素敵ね~!」
「ありがとう。お母さんの形見の服なの。
そして、帽子は、
キヨミさんからプレゼントしてもらたやつよ!」
そう聞いた瞬間、
私の気持ちは、淡く優しい空気に包まれた。
「ねえ、キヨミさん、あそこにピアノが置いてある!」
「本当だ!
いつか、この店で小さなパーティー出来るかもね!」
と言って、私達は喜んだ。
半年前、友達のエリーナにも
「いつも違う服ね。衣装持ち!」と言うと、
彼女も、「お母さんの服よ」と答えたのを思い出した。
今朝、まだベッドでぼんやりしていると携帯が鳴った。
つい最近まで、
シエナのコーラスの責任者を務めたクララからだ。
「キヨミ、明日の朝、私と一緒に同行して!
ある市の文化部門の担当者に、
例のプロジェクトの件を話しに行くのよ。
先方は、とても関心を示してるわ!」
昔は、行政から補助金が出て、
音楽家はコンサートを主催することが出来たが、
今では、税金を使うことが出来ない。
そんな中、クララは、
シエナの街にクラシック音楽を響かせようと、
いつも、人とコンタクトをとっている。
クラシックの公演に詩の朗読や演劇を取り入れたり、
または、ワインや本のプレゼンテーションを、
音楽を通じて表現したりと、
音楽の力で、あるテーマに息吹を吹き込み、
観衆も主催者も楽しむ、といった趣旨。
「それと、今日の16時に中国人留学生が
歌のレッスンに来るから、キヨミも来て!」
「了解! じゃあ、後でね!」
私の周囲には、ブランドを身につけない友達ばかりいて、忙しく動いているけど、お金儲けにはなっていない人が多い。
でも、彼らは、私を惹きつける世界観を持っている。
モノの考え方がオリジナルで鮮明、
そして自分のテリトリーを開拓している。
それは、全てがダイナミックとは限らず、
静かな世界観を、確固として持つ人もいる。
彼らが部屋着姿でも、お化粧をしていなくても、
そして、近所の普通のバールで過ごそうと、
その時間は私にとって輝いている。
中国に渡るブランド品の箱を目にして、考えてしまったけど、目が覚めた!
この手のカテゴリーで商売する人、また、
ブランドを非難して、自分を正当化する必要もない。
むしろ、自分が品格が落ちる。
人それぞれだ!
私が求める豊さとは、目に見えないものであって、
それを身にまとう人は、地味に見えることが多い。
それを見れる心の視力が霞んでしまわぬように心がけるのが、私流、自分を磨くことだと思う、今日この頃です。
| 固定リンク
« 途中下車 | トップページ | 細やかな喜びと充実感 »