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2014年6月

2014年6月29日 (日)

第一次大戦から100年

朝の10時半、
私はエリザベッタのアグリトゥリズモを訪れた。

「ボンジョールノ、キヨミ! 
 ドイツ語の件で、伯父と連絡とれた?」

「ありがとう! 
 伯父様ファウストと、ここで待合わせになったの。
 もうすぐ、彼も到着するわ。
 私からのお願い事なので
 私から訪問すべきなんだけど、車が無いから、
 郊外の伯父様の家まで行くことが出来ず・・・
 この件、諦めかけていたら
 私が君の所まで行くよ!と言ってくれたの。
 わざわざ、30分かけて来ていただくの、悪くって~」

エリザベッタは、
まもなく1歳になるジョルジャちゃんを腕に抱きながら、
「白ワインでも、どう?」と気遣ってくれる。

エリザベッタのお母様も加わり、団欒していると
ファウストが到着した。

とっても気さくな方で、フィーリングが合った。

私はファウストに、中国人留学生S君が歌のレッスンをしている様子のビデオを見せ、そして、ドイツ語で書かれた「魔笛」の楽譜を開いた。

「朗読してもらいたいのは、このページなんです。
 私、この小型カメラで録音します」

ファウストは楽譜を目から遠ざけたり近づけたりして、
ピントを合わせながら読み上げている。

「魔笛の物語、知っているかい?」

「はい。あらすじは、知ってます。
 最初、大蛇が出てきて王子様を襲い、
 その後、闇夜の女王の侍女達3人が登場し・・・・」

「そう。面白いストーリーだよね。私も好きなんだ!」

彼は音楽や歴史が好きで、
これまで数冊の本を書いていることを知った。

カメラのスイッチを入れると、彼はとてもゆっくりと、
そして、ドイツ語の癖のある発音は、特に丁寧に繰り返しながら、オペラの歌詞を朗読してくれた。

「今度、シエナでS君が歌うことがあったら、
 是非、私にも声をかけてくれ!」

「勿論です!」

朗読をしてくれている間、
ファウストの携帯に何度か連絡が入った。

イタリア語が堪能な中国人女性からだ。

彼女はシエナでガイドを始めたばかりで、
ファウストに分からない事をよく相談しているらしい。

昨日、S君に
「中国のご両親と連絡を取れてるの?」と聞いたら、

「はい。毎日、メッセージを送ってます」と答えた。

「電話は?」と聞いたら、
お金がかかるので、電話は出来ないと言っていた。

バールに入っても、彼は、
「お水があるから、大丈夫です」と言って、
リュックから、使い古したペットボトルをとりだす。

イタリアで留学する中国人学生が、
全てお金持ちとは限らない。

親が何年も節約して貯めたお金で来ている人、親戚中から借金をして子供に勉強をさせている人も沢山いる。

丁度100年前、第一次世界大戦が勃発した。

そして、100年経った今、
私達は、利益の為に争い憎み合うことをせず、
芸術というキーワードの基に集まり、
一緒に何かを築き上げようとしている。

100年前、国からの情報を受け取るだけだったけど、
100年後の今、
私達は、個々に連絡を取り合い、
尊重しあいながら、交流することが出来ている。

私は、15年のイタリア生活にしてはイタリア語が下手で、S君も、イタリア語に苦戦中。

脳からのインプットは難しいけど、
「自分はダメだ~」と卑下することなく、
何だか楽しくやれている今日この頃です!

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2014年6月27日 (金)

ドイツ語話せる人、いませんか?

歌の先生クララは、明日から海へ行く。

その前に、
中国人留学生のS君に「魔笛」の宿題を出した。

ドイツ語のアリアだ。

「キヨミ、ドイツ語分かる?」とクララに聞かれ、

「全く分からない! でも大丈夫。 
 誰かしら見つけるわ!」

と楽観的に答えた。

クララの家を出て、私はパトリッツィオに電話をした。

「ねえ、ガブリエーレの奥さん、ドイツ人でしょ! 
 あるアリアの歌詞をドイツ語で朗読してもらいたいんだけど、電話番号、教えてくれる?」

「了解。俺が先に電話で聞いてみる」

その後、パトリッツィオから電話が入った。

「キヨミがお金を払えば、快く引き受けてくれるよ。
 ドイツ人気質さ・・・」

「あら? 
 たった2ページのアリアの歌詞を朗読するのに、
 1分もかからないわ。
 私、彼女がいる所に出向いて行こうと思ってるの」

その後、私から彼女に電話をしてみたけど、
会話はどことなく事務的だった。

(そうだ! イタリア語外国人大学には
 世界から学生が集まっている。
 ドイツ人留学生だって、きっといるはず!)

そう思い、バスに乗った。

バスには、日本人女性の友達がいた。

私が、ドイツ人を探している趣旨を説明すると、

「あら、その中国人、お金を払う気がないわけ? 
 いくら、ちょっとした事だからって、
 お金を払わないで済まそうなんて、
 そんな話、通用しないわよ」

と反応された。

「でも・・・例えば、
 ある外国人から
‘日本の歌をきちんとした発音で歌いたいので、
 この歌詞を朗読してくれませんか?’
 って尋ねられたら、
 自分の国の事に関心をもってくれていること、
 嬉しく思わないかしら? 
 1分で朗読出来る内容なんだけど・・・」

それ以上、彼女と話をする気になれず、
私は、楽譜に目を通すふりをして、会話を閉じた。

その後、イタリア語外国人大学の受付でも、
「そういう問合せには、応答できない」と言われた。

(そんなものなのかな? 
 世の中、全て、お金なのかしら? 
 私の感覚が特殊なのかしら?)

少し弱気になりつつ、近でアグリトゥリズモを運営するエリザベッタに相談してみた。

彼女は、北イタリアの出身で、ドイツ語圏に近い。

「ごめんなさい。
 残念ながら、私はドイツ語を話せないけど、
 私の伯父なら、ドイツ語を話すわ! 
 後で、キヨミにメールするわね!」

と明るく答えてくれた。

彼女からメールが届き、
そこには、伯父様がシエナにいる日程と時間帯、
伯父様についての紹介、電話番号が書いてあり、
伯父様は、シエナの音楽学校でドイツ語を話せる教授を紹介する、と言ってくれている、とまで書いてある。

私はとっても感激した。

その後、シエナジャズ学校の講師で、
シエナジャズバンドのディレクターを務めるドイツ人のクラウスとも連絡がとれて、彼も快く引き受けてくれた。

それぞれと電話をする中で、
私たちは、お金の事には触れなかった。

彼らと会う約束をした。

約束の日、
私は、少し上等の白ワインを持参します!

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細やかな喜びと充実感

テノール歌手になりたい、
という中国人留学生は、18歳。

英語もイタリア語も、まだよく分からない彼だけど、
「沢山勉強したいです!」
という意気込みが真っ直ぐで、
クララも私も、そんな彼を応援している。

中国と日本。

地球のどこかで、政府に関係なく、
こうして、友好関係が築けていることに、
細やかな喜びを感じる今日この頃です。

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2014年6月24日 (火)

私流、自分磨き

郵便局に行くと、
いつものように、局員は笑顔で迎えてくれた。

「キヨミ、久しぶり! 元気だった?
 あの中国人、毎日、30箱は発送するようになったよ。
 朝、郵便局に寄って、それから、ボローニャや
 フィレンツェ、ローマのアウトレットに仕入に行く。
 そこで商品の写真を撮り、直ぐにネットにアップ。
 そして、翌日には、発送。
 200ユーロで仕入れるカバンを倍で売るのさ。
 俺が中国語を喋れたら、
 俺も同じ事をやれるんだけどな~・・・
 キヨミ、日本人はブランド買わないのかい?  
 キヨミの仕事は最近、順調かい?」

私は動揺した。

この郵便局に通う中国人男性は、
最初、週に10箱くらいしか発送していなかったけど、
今では、凄いボリュームになっている。

自分のキャパがとても小さく思えて委縮した。

(ブランド・・・お金儲け・・・)

この前、友達とランチをする事になり、
私はある食堂を指定した。

どんなにお腹いっぱいに食べても、10ユーロでたっぷりお釣りが来るセルフサービスの店で、厨房では、シエナのオバチャンが料理をこしらえている。

友達は、レース編のカーデガンと
つばの広い帽子をかぶってやってきた。

「あら、どこのお嬢さんかと思ったわ! 素敵ね~!」

「ありがとう。お母さんの形見の服なの。
 そして、帽子は、
 キヨミさんからプレゼントしてもらたやつよ!」

そう聞いた瞬間、
私の気持ちは、淡く優しい空気に包まれた。

「ねえ、キヨミさん、あそこにピアノが置いてある!」

「本当だ! 
 いつか、この店で小さなパーティー出来るかもね!」

と言って、私達は喜んだ。

半年前、友達のエリーナにも
「いつも違う服ね。衣装持ち!」と言うと、

彼女も、「お母さんの服よ」と答えたのを思い出した。

今朝、まだベッドでぼんやりしていると携帯が鳴った。

つい最近まで、
シエナのコーラスの責任者を務めたクララからだ。

「キヨミ、明日の朝、私と一緒に同行して!
 ある市の文化部門の担当者に、
 例のプロジェクトの件を話しに行くのよ。
 先方は、とても関心を示してるわ!」

昔は、行政から補助金が出て、
音楽家はコンサートを主催することが出来たが、
今では、税金を使うことが出来ない。

そんな中、クララは、
シエナの街にクラシック音楽を響かせようと、
いつも、人とコンタクトをとっている。

クラシックの公演に詩の朗読や演劇を取り入れたり、
または、ワインや本のプレゼンテーションを、
音楽を通じて表現したりと、
音楽の力で、あるテーマに息吹を吹き込み、
観衆も主催者も楽しむ、といった趣旨。

「それと、今日の16時に中国人留学生が
 歌のレッスンに来るから、キヨミも来て!」

「了解! じゃあ、後でね!」

私の周囲には、ブランドを身につけない友達ばかりいて、忙しく動いているけど、お金儲けにはなっていない人が多い。

でも、彼らは、私を惹きつける世界観を持っている。

モノの考え方がオリジナルで鮮明、
そして自分のテリトリーを開拓している。

それは、全てがダイナミックとは限らず、
静かな世界観を、確固として持つ人もいる。

彼らが部屋着姿でも、お化粧をしていなくても、
そして、近所の普通のバールで過ごそうと、
その時間は私にとって輝いている。

中国に渡るブランド品の箱を目にして、考えてしまったけど、目が覚めた!

この手のカテゴリーで商売する人、また、
ブランドを非難して、自分を正当化する必要もない。

むしろ、自分が品格が落ちる。

人それぞれだ!

私が求める豊さとは、目に見えないものであって、
それを身にまとう人は、地味に見えることが多い。

それを見れる心の視力が霞んでしまわぬように心がけるのが、私流、自分を磨くことだと思う、今日この頃です。

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2014年6月20日 (金)

途中下車

御客様に頼まれた商品を調達して、帰りのバスを待つ。

バスがやってきたけど、
行き先は残念ながら、私の家まで届かない。

荷物が無かったら終点から歩いて帰れるけど、
7キロのダンボールを抱えて坂道を登るのはキツイ。

でも、私はこのバスに乗った。

そして、ひっそりと建つ、いつも客の入っていない
中華レストランの前で下車した。

「ボンジョ~ルノ~、誰かいますか~」

私の声を聞きつけて、奥から中国人の女将が現れた。

「チャオ、チャオ!
 テイクアウトしたいんだけど、急ぎで出来るかしら? 
 30分後に通過するバスに乗りたいの。
 そうだな~
 海老と野菜の炒め物4人前と、チャーハン、3人前。
 一度に買って、あとは冷凍しとくわ!」

すると女将は、メモを取って小走りに厨房に行き、
中国語を威勢良く放った。

そして、10分も経つと、袋をさげてやってきた。

店の外でバスを待つけど、時は20時。
袋からの匂いが気になってしょうがない。

私は、店に戻った。

「すみませ~ん、スプーン頂戴! 
 待ってる間に、食べたくなっちゃった~!」

すぐに女将さんは、プラスチックのスプーンを持ってきてくれて、私は、店の屋外席で、チャーハンを食べ始めた。

食べていると、厨房から中国人の旦那が出てきて、
バスがやってくる方向を見つめている。

私が、バスを見過ごさないように、
道路に立っていてくれている。

「グラッツェ!」

昔、このレストランで食べた時、
注文を取りに来た女将さんは無愛想で、
私が挨拶しても、そっけない態度をとっていた。

今では、バスの中で見かけると、ニコッとして、
お互い、手を振り合う。

この店の料理は、調味料が効きすぎていてビールが進み、翌朝は、顔がパンパンになってしまう。

でも、時々、この中華レストランを使っている・・・・

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2014年6月18日 (水)

ある農園の一日

キャンティの作り手を訪れると、
彼らは澱引作業に奮闘していた。

発酵・熟成の工程で、
ワインには酵母や酒石などの澱が発生する。

これらの澱を取り除き、
ワインをクリーンにしてから瓶詰の工程に入るが、
この農園では、清澄の際、
ベントナイトという粒状の粘土を使用する。

ワインが貯蔵されているステンレスタンクに、
ベントナイト(ワイン100ℓにつき、20g)を入れる。

するとベントナイトは浮遊している澱を捕まえながら、
15日間くらいかかて、
ゆっくりとタンクの底に沈んでいく。

そして、上澄みの綺麗なワインを、
荒い目の紙フィルターにかけ、その後また、
別のフィルターにかけて、ワインは瓶詰される。

今、無農薬ワインのブームで、ネットなどを見ると、

「このワインには、二酸化硫黄が使用されていません」とか、「このワインは、旨みを逃さないため、ノンフィルターです」という表記をよく見かける。

一般的には、葡萄がワインに代わる工程で、
若干量の二酸化硫黄(酸化防止剤)が使用される。

二酸化硫黄は、酸化防止、雑菌の抑制、殺菌、その他、
ワインの色・質を安定化させる為に働きかけてくれる。

ワインの見本市で、
「このワインには、二酸化硫黄が使われていないんだ」

と作り手から説明を受ける度に、

「そうですか。
 ところで、どのくらい保存がきくのでしょうね?」

と訪ねると、どの作り手からも、

「まだ実証データはないから正確な事は言えないけど、
 直ぐに飲んで欲しい」という答えが返ってくる。

御客様の中には、「いつ飲もうかな?」と、
待つ楽しみをも味わっていただいている方も多いので、
体に害を及ぼさない量の二酸化硫黄の使用、不使用について、私はあまり神経質に考えないことにしている。

そして、フィルターに関して、
過度な濾過によっては、色や味を若干損なう事はあるが、失うこと=マイナス、とも言い切れない。

ある日、購入したキャンティクラッシコを飲んでみたら、
あまりにも成分が凝縮され、まだタンニンが強かった。

作り手には、「あと2~3年後経つと円やかに整い、
より美味しいく飲める」と言われたので、
このワインは、私の倉庫で眠っている。

一方、このキャンティの作り手は、
フィルターをかけているせいか、非常に飲み口がよい。

葡萄本来のポテンシャルが高いので、
フィルターにかけられた後、「薄まった」という結果にならず、むしろ、お連れする日本人の御客様から「美味しい!」と感想が漏れる。

この日は、ハプニングに奮闘している彼らを垣間見た。

澱が底に溜まった状態のタンクを傾けてしまい、そのため、タンク全体に、また、澱が舞いあがってしまった。

また新たに、澱が沈殿するのを待つ必要があるが、
ドロドロ状態のワインを目にすることが出来た。

このタンクには200リットルのワインが入っているので、ベントナイトは40gしか使用していない。

「こんなにドロドロした部分があるということは、
 澱が沢山あるっていうことかしら?」

「この作り手は、二酸化硫黄の使用量が少ないから、
 もし、ノンフィルターで瓶詰めしたら、
 瓶内に入る澱は、ワインに影響を与えないかしら?」

イタリアの小さな作り手は、完璧ではなく、
時に、失敗をしでかす。

「こんな状況、見られては困る」とか

「こんな時に、何で来るのよ!邪魔ね!」

といった感覚は全くなく、
このような状況をも私に説明してくれて、

「汚い手で、御免なさい~!」

と言いながら握手を交わしてくれる。

今、彼らが向き合っているワインは、
キャンティ2013年もの。

ステンレスタンクからグラスに注いでくれたワインは
美味しかった。

瓶詰めして2か月経つと、
この前まで、やんちゃであどけない女の子が、
大人の女性としての落ち着きを見せ始めるように、
落ち着いた状態になる。

秋に、この2013年のキャンティを飲んでみよう!

「あんな光景もあったっけ~!」とほくそ笑みながら!

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2014年6月17日 (火)

朝のシエナ

午前中、友達とシエナの街で過ごした。

カンポ広場のバールではシエナ人が優雅に新聞を読み、

路地裏の酒場では、
朝から年金生活者達が一杯ひっかけている。

一人のおじちゃんが、カウンターで小銭を並べている。

「娘さんの分も、俺が払う。幾らだい?」

店の主人は、「1ユーロ」と答えた。

こういう時は、遠慮しないで
わ~、ありがとうございます!」と答えるのがよい。

「日本でも、年金生活者が娘さんに御馳走するかい?」

おじちゃんは得意げにそう言って、店を出た。

シエナの街には、大人達の居場所が沢山ある。

寛ぐ彼らを見ていると、
街全体が「シエナ」という一つの家に見えてくる。

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2014年6月15日 (日)

今にシフト

透明感ある鉛色の空から、ぽたぽた雨が降ってきた。

枯草の渇いた香りや、ジャスミンの蜜の香りが色を増し、花、そして向日葵と葡萄の葉が、より鮮明に目に映る。

「さっきからスズメ達が賑やかだけど、
 こういう事を話題に
 お喋りが盛り上がっているのかしら?」

先の事、過去の事、仕事の事・・・

忙しなく移動する頭を「今」にシフトしてみると、
本来、視えている景色、聞こえている声に気付き、
それだけで、優しく楽しいひと時が過ごせる!

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2014年6月14日 (土)

日常生活の隠し味

夕方、パトリッツィオに電話をした。

「元気?」

「ああ、俺は元気さ。キヨミは?」

「私は、落ち込みモードなの。元気ない」

「どうして?」

「理由は分からないわ。
 天気と同じで、操作できないのよ。
 今日は、こうなの。今からバールで会えるかしら? 
 翻訳で、部分的に分からない個所を教えて欲しいの。
 でね、私、お腹が緩くて、
 あまり遠くまで行けないんだけど」

「だったら、今からキヨミの家に行くよ。じゃあっ!」

30分後に彼はやってきて、私は赤ワインで出迎えた。

「結婚式の通訳を頼まれて、民法の翻訳しているけど、
 部分的にすっきりしないのよ」

そういって原稿を渡すと、
彼はソファーに深く腰掛けて、
大きな声で真面目に読み始めた。

「民事婚。
 新郎フィーニ パトリッツィオ、新婦 オタワ キヨミ」

私は、プッと吹き出した。

彼は、抑揚とジェスチャーと、
そして間をしっかりと置きながら、読み上げる。

「ちょっと待って。このセンテンス、どういう意味?」

「キヨミは、難しく考え過ぎ。
 例えば、家にスペースがあるとする。
 それを、車庫にするか、犬小屋にするか? 
 家族にとって大事なことは、
 夫婦で平等に決めなさいって事だ」

「あぁ、なるほどね!」

普段 使い慣れない言葉と文脈で、頭がこんがらがったけど、彼の助けで、紐がゆっくりと解けてきた。

今朝、ローマの領事館や文化会館に問合せをしたけど、
婚姻に関する民法の翻訳見本は無いと言われた。

でも、こうしてパトリッツィオがゆっくりと、
分かりやすく説明してくれる。

そう言えば、さっき実家にスカイプをしたら、
姪っ子が泊りに来ていて、

「これから、お婆ちゃんと一緒にご飯を作るんだ!」
と言っていた。

パトリッツィオと私の母は、
美味しい時間を仕上げてくれる隠し味。

長閑に暮らす彼らのペースに触れると、
「守られている」という安堵感のスパスが効いて、
私の日常はマイルドで柔らかく仕上がる。

忙しい時は、やるしかないけど、
私も、マイルドな隠し味のスパイスになれるよう、
無理に忙しく自分を追い込むのは、
私好みの味とは違うかな? 

と感じる今日この頃です。

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2014年6月 9日 (月)

パリオ祭が近づいてきた

小さなシエナの街は、17の地区に分かれている。

シエナ人は、自分の生まれた地区との絆を深く感じ、
忠誠心を抱くので、
それぞれの地区は一つの共同体となり、結束が強い。

1年を通じて、地区ごとに様々な活動が行われるが、
毎年、7月2日と8月16日にパリオと呼ばれる祭があり、
各地区が、馬のレースを通じて競い合う。

パリオ祭が近づくと、
毎週日曜日には2の地区が行進する。

一つは、シエナの街中(城壁内)を、
そして、もう一つは、シエナの郊外(城壁の外)を。

この日はTartuca(亀)と呼ばれる地区が、
終日 街を行進していた。

シエナ人の魂が最高の沸点に達するパリオ祭。

ドラムと共に、シエナが鼓動し始めた!

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2014年6月 8日 (日)

フランチェスカちゃん

ある日、フランチェスカちゃんは狩猟の男に捕まり、
それから、彼の農園で暮らすようになった。

男の名前はロビン。

1940年代のアメリカ映画、ロビンフッドに出てくる
俳優に似ていることから、皆にそう呼ばれている。

ある日ロビンは狩猟仲間に携帯からメッセージを送った。

「フランチェスカが逃げた・・・寂しい・・・」

仲間で探し回ったけど見つからず、落胆していたけど、
翌日、彼女は門の前にひょっこり戻ってきた。

狩猟仲間達は、猪が賢いことを悟った。

4週間前、
フランチェスカちゃんは3頭の瓜坊を出産した。

ロビンは、狩猟仲間にメッセージを送った。

「フランチェスカに赤ん坊が生まれた! 
 子供は、俺似で、とっても可愛いんだ!」

フランチェスカちゃんは、
飼い猫のようにロビンに懐いている。

フランチェスカちゃんがご飯を食べている時、
チョロチョロ~、っとネズミが走り抜けた。

「ネズミだ!」というと、ロビンは、

「ああ、5匹」と答えた。

フランチェスカちゃんとその子供たちは、
ロビンの家族として暮らしているのであって、
決して、姿を変えて卓上に登場することはない。

「フランチェスカ~」と呼ぶと、
彼女は寄ってきて、柵から鼻を突きだした。

大阪から来たKちゃんと私は、
土まみれで濡れてる鼻の穴を撫でてながら
「触っちゃった~!」とはしゃいだ。

狩猟男って、
動物を見たら射るものかと思っていたけど、
ちょっと変わった、ほのぼのした光景だった。

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2014年6月 5日 (木)

スローライフとスローフード

ブルネロの作り手宅に到着した時、
コック歴45年のレーダおばさんは、
アーティチョークの下ごしらえをしていた。

「4月1日頃から収穫を始めたけど、
 これが畑に残っている最後ね。
 綺麗とは言えないでしょ~・・・
 ルチアは捨ててしまいなさいよ、って言ったけど、
 そぎ落としたら、少しは食べれるところが残るわ」

と言って、皮をむいて小さくなったアーティチョークをレモン水に入れていた。

「ご飯よ~」

ルチアママの号令で、私達はテーブルについた。

小麦粉と卵でこしらえた生パスタも手づくりだけど、
ソースのラグーも、
彼らが飼育している豚が使われた自家製だ。

あまりの美味しさに、おかわりをすると、ルチアママは、唐辛子入りのオリーブオイルをかけてくれた。

同じ料理でも、
唐辛子とオリーブオイルの刺激が加わると、
味に深みが出て食欲が増進される。

この後、ソーセージ入りの卵焼きと、
自家製の猪の生ハムが並んだ。

本来、猪のハムには、脂身の部分がない。

でも、このハムに脂身があるのは、
豚と猪のあいのこだから。

「昼になると、豚達は山にピクニックに行くのさ。
 そこで、お母さん豚は猪に出逢い、
 赤ちゃんが生まれるんだ。」

と語ってくれた。

この脂身はさっぱりとしていて、いくらでも食べれる。

豚ちゃん達は、好きな時に山に出かけ、猪と恋に落ちて、この農園に戻ってきて、ご飯を食べるという、長閑な生活をしているけど、最後は、食卓に並んでしまう。

いつもだったら、
「豚ちゃんが可哀想・・・」と思うところだが、
今回は、何かがまとまって感じられて、
それを当然のように受け止めている私がいる。

男性が愛情を持って動物を世話し、果実を栽培し、
女性はきちんと、それを料理する。

昼食は13時からと、きっちり決まっていて、
農園の舵をとる息子のエリアが、テーブルの上座に着き、
ルチアママは下座に着いて、
料理が変わるごとに、皆の皿を取り替える。

食事中、料理の写真を撮ることが、
とっても不自然なことに感じられて、
シャッターを切るのを止めた。

肉、野菜、卵、オリーブオイル、ワイン、果物は自家製。

共働きで、
出来合いの御惣菜や外食に依存する率が高くなる中、
こういう家族の食事の風景が、神聖に思えた。

家族の絆、家族の健康、スローフード、スローライフ

そんな言葉を点で捉え、
それぞれの定義を探る必要はない。

ここにいると、それらが一つの空間に当たり前に存在していることが肌で分かる。

私は一人暮らしで、一人で食事をすることが多いから、
このランチの印象が、とっても味わい深く感じられた。

何もかもが美味くて、その余韻は長い。

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2014年6月 4日 (水)

自然を泣かせる 悲しい合理化

シエナで料理修業をするYちゃんと、
モンタルチーノを訪れた。

訪問先は、
無農薬のブルネロを手掛ける小さな家族経営の農園。

車で農園に向かう途中、Yちゃんが、
「あ、枯れている・・・」と口にした。

季節的に緑が青々した光景の中で、
枯れ果てている畑があった。

「これは、悲し現実なのさ。
 ここに、大手企業と小さな作り手の違いが
 現れているんだよ。

 俺の畑は、2011年に古い葡萄の木を抜いて、
 今年の9月末に台木を植える。 3年の間、
 豆などを植えながら土地に窒素を補給し、
 土地を休ませる。

 これが一般的なやり方なんだ。

 しかし、この枯れた畑の持ち主は、
 大手企業の作り手。

 彼らは、除草剤を撒いてひっこ抜き、
 今年の10月には、台木を植えるんだ。
 自然がストレスを感じてるよ」

家に戻って、除草剤を使用している大手ワイナリーのホームページを見たら、「私達の情熱の根をワイン会に捧ぐ」みたいな事が書かれている。

研究開発が進み、
もしかしたら土に優しい除草剤かもしれないし、
出来あがるワインは、美味しいかもしれない。
一概に否定できないけど・・・・

私達には、土地が泣いているように思えて、
気持ちが沈んだ。

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2014年6月 1日 (日)

オリーブの花、開花です!

品種や土壌、標高によって時期が異なるけど、
オリーブの可憐な花が咲き始めた。

確か2012年も、6月の上旬には咲いていた。
この年は旱魃が続き、
辛さと苦みが特化したオリーブオイルが出来あがった。

2013年は、6月中旬に満開で、多雨だったので、
辛みと苦みがマイルドな出来となった。

そして、2014年、
今のところ、開花時期も温度も順調に進んでいる、
というのは素人の私の意見。

畑に向き合う無農薬の農夫は、

「今年の冬は暖冬だったろ? 
 だから、虫の生存率が高いんだ。
 この先、害虫の被害が発生しないといいが・・・」

と懸念は絶えない。

今、こうしてトスカーナの太陽を浴びて、
風に優しく撫でられた花達が実に形を変え、
秋になると絞られて、私達の舌を楽しませてくれる。

その後、
栄養となって体内で働き続けてくれるオリーブオイル。

何だか不思議で、とっても贅沢!

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