第一次大戦から100年
朝の10時半、
私はエリザベッタのアグリトゥリズモを訪れた。
「ボンジョールノ、キヨミ!
ドイツ語の件で、伯父と連絡とれた?」
「ありがとう!
伯父様ファウストと、ここで待合わせになったの。
もうすぐ、彼も到着するわ。
私からのお願い事なので
私から訪問すべきなんだけど、車が無いから、
郊外の伯父様の家まで行くことが出来ず・・・
この件、諦めかけていたら
私が君の所まで行くよ!と言ってくれたの。
わざわざ、30分かけて来ていただくの、悪くって~」
エリザベッタは、
まもなく1歳になるジョルジャちゃんを腕に抱きながら、
「白ワインでも、どう?」と気遣ってくれる。
エリザベッタのお母様も加わり、団欒していると
ファウストが到着した。
とっても気さくな方で、フィーリングが合った。
私はファウストに、中国人留学生S君が歌のレッスンをしている様子のビデオを見せ、そして、ドイツ語で書かれた「魔笛」の楽譜を開いた。
「朗読してもらいたいのは、このページなんです。
私、この小型カメラで録音します」
ファウストは楽譜を目から遠ざけたり近づけたりして、
ピントを合わせながら読み上げている。
「魔笛の物語、知っているかい?」
「はい。あらすじは、知ってます。
最初、大蛇が出てきて王子様を襲い、
その後、闇夜の女王の侍女達3人が登場し・・・・」
「そう。面白いストーリーだよね。私も好きなんだ!」
彼は音楽や歴史が好きで、
これまで数冊の本を書いていることを知った。
カメラのスイッチを入れると、彼はとてもゆっくりと、
そして、ドイツ語の癖のある発音は、特に丁寧に繰り返しながら、オペラの歌詞を朗読してくれた。
「今度、シエナでS君が歌うことがあったら、
是非、私にも声をかけてくれ!」
「勿論です!」
朗読をしてくれている間、
ファウストの携帯に何度か連絡が入った。
イタリア語が堪能な中国人女性からだ。
彼女はシエナでガイドを始めたばかりで、
ファウストに分からない事をよく相談しているらしい。
昨日、S君に
「中国のご両親と連絡を取れてるの?」と聞いたら、
「はい。毎日、メッセージを送ってます」と答えた。
「電話は?」と聞いたら、
お金がかかるので、電話は出来ないと言っていた。
バールに入っても、彼は、
「お水があるから、大丈夫です」と言って、
リュックから、使い古したペットボトルをとりだす。
イタリアで留学する中国人学生が、
全てお金持ちとは限らない。
親が何年も節約して貯めたお金で来ている人、親戚中から借金をして子供に勉強をさせている人も沢山いる。
丁度100年前、第一次世界大戦が勃発した。
そして、100年経った今、
私達は、利益の為に争い憎み合うことをせず、
芸術というキーワードの基に集まり、
一緒に何かを築き上げようとしている。
100年前、国からの情報を受け取るだけだったけど、
100年後の今、
私達は、個々に連絡を取り合い、
尊重しあいながら、交流することが出来ている。
私は、15年のイタリア生活にしてはイタリア語が下手で、S君も、イタリア語に苦戦中。
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