「キヨミさん、歌のお披露目会、いつにしましょう?」
マミコちゃんから、メッセージが届いた。
確か2週間くらい前、彼女が私の家に遊びに来た時、
彼女が歌い始め、私が伴奏をしていたら、
他のイタリア人が「二人でコンサートを開くべきだ!」
とおだてるものだから、嬉しくなって、
「やっちゃおうか!」と言ったことを思いだした。
メッセージをもらった一週間後に会を開くことにした。
私はちょうど、ユーチューブで観れる映画
『楽聖ショパン/ A Song to Remember』に
感化を受けていた。
リストがジョルジュサンドにショパンを紹介するシーンやサロンでピアノを弾くシーンを、夢心地で何度も繰り返して観ていたものだから、この会も、できたら同じ趣味の人同士が知り合ってくれるような、そして、自分の才能をお披露目できるような、そんなサロン的なパーティーにしたいと思って、何人かに声をかけた。
全部で15人。
テーブルには、マウロが畑からもいだトマト、
アンナが農家の卵で作ったスペイン風オムレツ、
マミコちゃんお手製、
どのお菓子屋さんも敵わぬほど美味しいお菓子が4種類
そしてローストビーフ、
日本人留学生 差入れのジュースなどが並び
私も、気持ちが大きくなって、
8年熟成のスプマンテや北イタリアの素晴らしい白ワイン、好奇心が開花し、68年のブルネロやデザートワイなどを開けた。
あえて、知らない人同士を呼んだので、
パーティーの出だしはおとなしい雰囲気だった。
「エリカちゃん、どうぞ!」
音大を卒業している彼女を指名すると、
彼女は怯むことなく、
1番バッターとして、オペラを歌ってくれた。
「お次は、マミコちゃん、どうぞ!」
オペラの次で、ちょっとだけ怯んだけど、
日本人学生のN君が ぶっつけ本番で
「エンドレス・ラブ」の男性部分を引受けてくれて
二人に拍手が送られた。
N君も音大出身で、素晴しいテノールの声を持っている。
その彼と、サラちゃんで、
これもまた、ぶっつけ本番のデュエット
「vivo per ler」の熱唱があり、
同じ敷地内のテラスで食事をしていたオーナー家族が、
両手を大きく振りながら、
「素晴らしい!」の歓声を送ってくれた。
盛り上がってくると、やっとヤコポがその気になった。
彼は昔、フィレンツェやシエナの教会で、
テノールのアリアを歌っていた。
今では全く違う仕事につき、
もう何年も音楽の世界から遠のいているので、
電話口では、「俺は、歌わないよ」と言ってたけど、
ナポリ民謡を本格的に歌いだした。
気が付いたら、
皆、何かを歌いたがって、そわそわしている。
私以外に、
N君も、エリカちゃんも、サラもピアノが弾けて、
皆、弾ける部分だけ、サビの部分だけを弾いたり、歌ったりして、夢中になっている。
イタリア語にまだ不慣れなはずの日本人も、
「音楽」という共通言語を通じて、緊張することなく、
イタリア人とコミュニケーションを楽しんでいる。
歌い手チーム以外のメンバーも気持ちがすっかりほぐれ、あちらこちらで、知らない人同士が話はじめた。
私は、皆が揃ってからパスタや、その他の料理に取り掛かろうと思っていたけど、結局、その場を離れることが出来ず、準備していた料理が出しきれないまま、パトリッツィオがバーベキューを始めた。
その点は、反省するけど・・・
でも、翌日、色々な人から、
「昨日のパーティーは、本当に楽しかった!」
と言ってもらえて、「意味があった!」と確信した。
「完璧じゃないと、人様の前にお披露目できない」
という概念を壊したかった。
皆、だれかしら、小さな頃に習っていたことがある。
好きで続けていたこと。
でも、社会人になったら、
「役に立たない」「時間もないし」と割り切り、
その世界から遠のいてしまう。
パッションがあって、初めたことなのに・・・・
好きだから、続けてきたことなのに・・・・
そんな部分を抽出したい。
準備不足だったり、突然のアドリブだったり、
気持ちに技術が追い付かないけど、
だから、愛おしく感じ、応援したくなり、
「私も!」と自分に勢いがついたりする。
音楽。
色々な音色を持つ人達が一つになる時間。
そんな会、これからも時々、開催したいな・・・
