シンプルは豊か!
エリーナは、夏だけ海沿いにあるアパートで過ごす。
「到着したわよ!」バスを降りて彼女に電話をした。
「すぐに迎えに行くわ!」
教会の階段に座って待つこと5分。
何だか、気持ちが浮かれてきた。
小麦色に日焼けした老人が、
サンゴやコバルトブルーの服をまとい、
ベンチで新聞を読んだり、犬の散歩をしたりしている。
彼女が現れると、
シエナから履いてきた少しヒールのあるサンダルを脱ぎ、ビーチサンダルに履き替えて、海に向かった。
「ねえ エリーナ、ヒールの高さで気持ちが変わらない?高ければ高いほど、“私は、女よ!”って 高飛車な気分になるけど、ペッタンコになると、気位が萎えちゃって、平民になるの。楽でいいけどね!」
「あら、キヨミ、ペッタンコの靴の時は、
私たち、エジプトの女王様よ!
サンダルには紐が付いていて、
ふくらはぎのところでクロスしているの!
だから顎をあげて、高貴に歩くのよ!」
「なるほど、それもそうねっ!」
私たちは、安っぽいピンク色のビーチサンダルで、
出来るだけ優雅に歩きながら、笑った。
海に着くと、彼女の家族や親戚たちが、
デッキチェアーで寛いでいる
つい最近10歳になったアレッシオは、デジタルカメラに夢中で、皆の顔を撮りまくっている。
ドアップの、変な表情を捉える天才で、
私たちは彼の作品に大笑いしながら、
心で軽くため息をついた。
「ねえ、鏡に写る顔と写真の顔、
どっちを信じたらいいのかしら?」
「鏡の顔は受け入れられるけど、
写真の顔は、信じたくないわね。
でも、私たちの年齢って、認めたくない自分の顔も
受け止めていく勇気が必要よね・・・」
昼時間に差し掛かかる頃、
パトリッツィオから電話が入った。
「どうだい?」
「風が気持ちいいいわ!これから、ランチよ。
旦那のリカルドは料理が得意なの。
今日のメニューは、魚介類のパスタなんですって!
それに、新鮮な魚のメインがあるらしいの!」
「お~! 料理が上手いんだったら、リカルドを養子にしよう!キヨミ、海から連れて来てくれ!」
彼のメッセージに、リカルドも笑った。
お爺ちゃん、お婆ちゃん、息子・娘夫婦に孫・・・
そして、私のような友達が、
水着姿で ただ、砂浜に一緒にいるだけ。
とてもシンプルな過ごし方だけど、豊さを感じる。
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