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2013年6月 1日 (土)

デビュー!

今日は老人ホームでコンサート。

会場に人が埋まり、責任者のクララが挨拶を始める頃、
私は、小型カメラを設定していた。

クララが、メンバーの紹介を始めている。

「今日はスイス人のバイオリニスト、ヨハン氏、そして
日本人のピアニスト、KIYOMI OTAWAの参加もあります」
と言われ、私は真赤になって、猫背気味に立ち、
皆にお辞儀をして拍手を受けた。

私がどんなに動揺し、どんなに感激しているか察しているエリーナは、悪戯っぽい目つきで私を見て、ウインクした。

モーツァルトの合唱、ヨハンのバイオリン、そして、アルテロが歌うヴェルディまでは、エリーナが伴奏を務め、その次のチャイコフスキーは、エリーナが歌う為、私がピアノを弾く。

和太鼓が心に(ドン・ドン)と響くのを感じた。

何事もないように繕いながら、弾き始めた。

汗をかいているのが分かった。

この曲が終わる頃には、ジャケットがビッショリになっているのではないか?と思った。

無事に弾き終え、エリーナがまた伴奏に、
私はページをめくる役にまわった。

コンサートも終盤にさしかかり、
エリーナは独奏でショパンのノクターンを弾いた。

曲が始まると、嫌な予感がした。

私は、老人ホームでピアノを弾いていた経験がある。

婦長さんからは、「静かで穏やかな曲を」とお願いされていたので、ショパンのノクターンを弾いたら、サロンがシラケた。

カルメンを弾いたら、あるご婦人が踊り出し、
ヨハンシュトラウスを弾いて欲しい、とリクエストがあり・・・気付くと、40年~50年代の歌のリクエストが増えてきた。

お年寄りは、刺激のある音楽を望んでいることを現場で知った。

予感は的中して、演奏の途中で、欠伸の声が聞こえたり、
ご婦人の喋り声が目立ってきて、エリーナも、集中を欠いたしまったのか、左手のタッチがおぼついた。

弾き終えると、音楽仲間たちが、
「ブラーヴァ、エリーナ! ブラーヴァ!」と声援を送り、私も頭上でめいっぱいの拍手を鳴らして、彼女を盛り上げた。

エリーナは、いつもの笑顔を絶やさない。

強い。

今まで、銀行や市の助成金でコンサートが成り立ってきたけど、昨年からは予算が下りず、音楽家自らがコンサートを企画しなければならない。

だから、こういう老人ホームでの演奏も増えてくる。

私も、シエナでのコンサートの企画にアイデアを出すが、アイデアを口走るのは、お喋りと一緒で、意味がない。

一人ひとりが、実際に動かなければならない。

「不況」というテーマは、短調だけではなく、
長調のダイナミックなオーケストラを奏でることもある

そんな空気を感じる、今日この頃です。

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