モーツァルトの愛したワイン
イタリア北東部のトレント州から、
Marzemino(マルツェミーノ)が届いた。
モーツァルトに愛され、ドン ジョバンニのオペラにも登場する葡萄品種、マルツェミーノ。
シエナの国立エノテカでも取扱いがないし、
恐らく日本でも見つからない。
頂点に達した期待値といっしょに、グラスに注いでみる・・・しかし・・・全開した期待とは裏腹に、ワインは閉じている。
やや消沈した声で、パトリッツィオに電話を入れた。
「残念なことに、思ったほどのワインじゃないの。
サンジョヴェーゼのような、華やかさがないのよ・・・」
「キヨミ、ワインを好き嫌いで判断してはダメだ。
ワインを知ろうとするんだ」
パトリッツィオが訪れてくれて、一緒にテイスティングをした。
「・・・ね、熟した果実の甘みに欠けるでしょ?」
誘導するように問いかけると、彼は静かに語り始めた。
「キヨミ、これは、ワイン単独で楽しむタイプじゃないけど、料理のことを考えると、最高のパートナーだよ。北の品種だ。北イタリアの人間は、何食べる?脂身あ
る豚肉とかを食べるだろ?
そんな料理に、このワインはピッタリじゃないか!」
なるほど!
彼が帰った後、冷蔵庫にある豚肉を、たっぷりのバターでソテーしてみた
肉を頬張ると、口中はバターの膜で覆われ、そこに豚肉の甘みがどっしり居座る。
そこへ、マルツェミーノを流し込む。
(ワ~!食事との相性って、こう言う事を言うのね)
ワインは余計な甘みのボリュームを伴わず、
タンニンは料理を縁取り、その酸味は、バターの膜をぬぐい、完全に意気投合している。
ステーキを食べた後に、レモンのシャーベットが粋な働きかけをしてくれたように、バターを使用した肉料理には、このワインが抜群に絡んでくる。
「キヨミ、葡萄品種は違いがあるから面白いんだ。
輝かしく美味しく整った現代風のワインは確かに飲み心地がいい。でも、それは、ワインを知ることにはならない…」
確かにそうだ。ワインを知るには、もっと、客観的にならなくては・・・奥が深い・・・
※オペラ「ドン・ジョバンニ」 映像の2;45秒あたりで、〝Excelente marzemino !”と唄ってます
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