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2013年2月

2013年2月25日 (月)

ブルネロのテイスティングの準備

今日は、モンタルチーノ村でブルネロの試飲会。

肝臓を傷め、禁酒生活を送るパトリッツィオに、
電話で、この日の感想を述べました。

「果実味と同時に、なめし皮、土やロースト香のようなニュアンスもあり、その部分がしっかりと分かるワインは、どこか男性的な感じがして…」

そんなコメントにパトリッツィオは口を挟みます。

「キヨミ、そんな当たり前なコメントはつまらない。
いつものように、キヨミ節で語ってくれよ。
音楽を例えに、もしくは、私生活で起こるシーンを例えたりして語る、そんなテイスティングコメントこそ、キヨミのオリジナルだろ?」

「そうね!私、型にハマってしまってたわ。
一つの音楽でも、奏者が違うと違う調べになる。
それは、同じ葡萄品種でも、作り手が違うと、
違う感情を持って心に響くのと一緒よね」

そして、この日、なんとなく心に淀んだ愚痴を溢しはじめました。

「パトリッツィオ、私、また例の美人日本留学生と試飲会場で会ったけど、正直言って、彼女といると不愉快なのよ。周囲の人間が、彼女の姿を見た途端に、ビップ扱いする。隣にいると、優劣をつけられているようで・・・」

「それは完全に嫉妬だな」

「分かってる。私の問題よね。それにしても、
ラウラやフランチェスカのように、訳があって、女手一つで事業を支える彼女たちは、とっても偉いわ。お世辞にも、美人とは言えないでしょ。取り巻き男性のコネなんて武器は持たないのよ。泣いて、苦労を重ねて、実力で立っている。そんな彼女たちは、私の持つくだらない嫉妬の代わりに、ユーモアのセンスを持ち、大らかで明るく、人のことをよく覚えていて大切に扱ってくれるのね。私も、そういう女にならなくちゃ、ダメね!」

ブルネロと人間が交差してしまう。

容姿端麗で、明るく振舞う女性には、
すぐに惹かれて、心地よさを感じる。

ならば、ブルネロも、パッと出合った時に、
華やかさを印象付けてくれるものがいいのかな?

美人ではなく、でも、賢く、忍耐がある女性は、
付き合えば付き合うほどに、彼女たちの凄さが身に沁み、尊敬してしまう。それをワインに例えると、どうなるんだろう?

モンタルチーノでエノテカを経営する女性に言われた言葉が耳に残る。

「ブルネロは一つ一つが違うのよ。
それぞれのキャラクターを理解しなくちゃ!」

なるほど。

今まで私は、「飲み心地が良い」「華やかな」という第一印象を大事にしてた。

もっと深くテイスティングコメントをするには、
作り手を知る努力も必要だな、と思い知らされた。

どのような環境で葡萄が育っているのか?

収穫後、蔵での働きかけは、
どのような意図をもって取り組んでいるのか? 

そして、テイスティング、ということが揃わないと、
内面的にブルネロを味わっているとは言えないかもしれない。

長期熟成したワイン、ブルネロのコメントを語るには、
語り手も熟成してないと、分かり合えないかもしれない
と感じる今日この頃です。

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2013年2月22日 (金)

無添加

朝の6時。
この前までは真っ暗で何も見えなかったのに、
寝むそうな表情をした景色がぼんやりと姿を見せ、
頬に触れる空気も、春色を帯びて和らいでいます。

「ボンジョールノ、キヨミ」

「ボンジョールノ、ルイージ。元気? 
後でバールに立ち寄って、朝食しましょうね!」

オリーブオイルの作り手、ファンチュッリ農園では、数年前から石鹸やボディークリームも手掛けるようになりました。

今から、彼らのオリーブオイルを使用して石鹸を作る工房に向け、出発!10時頃には到着するでしょう。

「ねえ、どうして、この工房を選んだの?
もう少し、近場になかったのかしら?」

「うん。石鹸の工房を選ぶまで、1年かかったよ。
最初に、自然派の石鹸を手掛ける工房のリストを洗い出したんだ。会社のパンフレットに目を通し、また、その会社の評判を調べながら、どんどん、選択を狭めていった。ビオ辞典、というのがある。そこには、市場に出回っている製品の成分が掲載されている。それを見ては、また絞りこみ・・・最終的に3社が残った。今度は作り手を呼んで、じっくりと話を聞いてみた。

話を聞くと、やはり、化学成分を使用して工場的に仕上げている様子が見え隠れするところもあったので、削除。最後に残ったのが、今から僕たちが向かう工房なのさ」

トスカーナの丘陵を超え、雪化粧をした山間部に入り、
暫く走行して平原になると、小さな街が現れました。

赤信号で停車した場所には、バールがあります。

「ねえ、いっそのこと、ここに入りましょう!」

「うん、いいタイミングだよ! 今、ワゴン車がこの店に駐車した。出来たてのパンが運ばれたのさ!」

イタリア人は、徹底的に甘い朝食に口説かれて一日をスタートします。

ドーナツ、クリームパン、チョコレートパン、蜂蜜がたっぷり詰まったものや、砂糖がたっぷりとまぶされたパンなど・・・とにかく甘いのです。

「私は、コレ!」と指をさし、
紙に包まれたパンを受け取ると、まだ温かい!

大通りでもないのに、パンの到着を知っているのか、
どんどん地元の人が入ってくる。

カウンターの男性は、お客の名前を呼びながら挨拶を交わしているので、賑わいが生まれます。

情報が氾濫する中、少しでも得をしようと、
「特別に美味しい」評判のお店に行ってみるが、
情報は堪能したものの、実際、味と雰囲気は期待したほどでもない時があります。

それに比べ、「ただ、人が集まってくる」
という現実的なお店に居るのは、とても居心地が良い。

さて、お腹にエネルギーを補給をしたところで、
目的地に向けて出発。

車内で話をし続けていたせいか、あっという間に現場に到着し、29歳の工房のオーナーは、初対面とは思えぬ普段着の笑顔で迎えてくれました。

「無添加石鹸づくりを始めたきっかけは何ですか?」

「昔から、手で何かを作ることが好きだったんです。
パンとか、パスタとか・・・自然のものを使ってね」

この日、私達が受け取った石鹸は100個。

そしてルイージは、次の石鹸用に、シエナから持参したオリーブオイルを工房に運びこみました。

「ねえ、何年に収穫したオリーブオイルなの?」

「キヨミ、何言ってるんだよ!
 2012年。この前、絞ったものさ!」

「え~、食用として高級なのに!
 新鮮なうちから、石鹸に使っちゃうの?!」

パッケージに綴る情報やイメージラベルは、何とでも作れるし、それをお客様に伝える表現も、何とでも創意工夫が出来る。

しかし、イタリア現地にいる以上、皆様に
「美味しそうな情報」を味わっていただくのではなく、
「本当に良いものだから、自然に人が集まってくる」
という、そんな商品に触れていただく機会を提供していきたいです。

最近、ブログの更新まで間隔が空いてしまいがちですね。

反省、反省!

次回のブログは、またシエナの日常生活を綴ります!

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2013年2月10日 (日)

Made in Italy

日本からいらしたお客様をワイナリーにご案内しました。

本来、私とパトリッツィオがお連れするのは小さな農園なのですが、今回は、お客様からワイナリーのご指名があり、キャンティクラッシコ地区にある、大手・有名ワイナリーを訪れます。

車窓の眺とは対象的に、館内はとても近代的。

案内係の女性に従って、ショップから事務所脇を通り、
発酵が行われる部屋へと移動です。

「ここは、昨年の秋に完成したばかりの建物です。
今まで、発酵のために使われるタンクは、左奥にあるものだけでした。
広大な地域からいっきに集められた葡萄を処理するため、計画が大変でした・・・
発酵中のタンク内では、時間が経つと、葡萄が浮いてきます。それを液体に浸し込むため、レコードディスクのような形のもので、上から抑え込むのですが、それを操作するために、4人が、リモコンを片手に操作していたのです。でも、昨年に新しいステンレスタンクを導入。
最新のコンピュータ機能付ですので、これからはコンピュータが自動操作してくれます」

(これまで、収穫時期に欠かせなかった4人の作業が、
昨年から無くなったのね・・・)

タンクから葡萄のカスを取り除く作業も機械が自動に行ってくれる等など、女性は、得意げに、新しいステンレスタンクの性能を説明し続けます。

最新のコンピュータ機能を搭載するメリットとして、
衛生面、作業する人の事故防止、そして何よりも、
市場に好まれるワインの味覚の向上を唱っている。

次々と場所を移動し、ワイン製造の工程の説明を受ける中、そこで働く人たちへ、「ボンジョ~ルノ」と挨拶をしますが、私達の挨拶に反応するスタッフは誰一人としていません。

「パトリッツィオ、農園で働く人は、
ニコッとして、挨拶してくれるのにね・・・・」

「キヨミ、ここは工場だ。
働く人のメンタリティーも違うんだよ」

最近見たテレビでは、
イタリア人の貧困ぶりが報道されていました。

「昔はどこかしらで作業ができたのに、どうしてなの?
今では、何故、作業をする場がないのかしら? 
不定期に入るパート。中学生のお小遣いのような収入で、このまま生活を続けていけないわ」と、額に皺を寄せ、インタビューに応じる女性は、私と同じ44歳です。

一昔前は、50代半ばの男性が、このような苦悩を訴えていましたが、今では、まだまだ働く体力のある、40代の働き手でも、働く場が無くなってきています。

昔、中国に、イタリアワインの輸出を手掛けていた頃、
イタリアのワインの作り手と一緒に、中国を訪れました。

あるワインメーカーで、ボトリング作業を目にしたイタリア人の社長は、「まだ、こんなに古い機械を使っているのですか?これでは、効率が悪いでしょう。私の友達に頼み、新しい機械、もしくは、中古でも、これより処理能力がいいものを提供しましょうか?」と提案したところ、

「いやいや、政府からの要請で、人を雇わなければならないんです。機械が全部を引き受けてしまったら、困ります」という応えが中国人から返ってきました。

なるほど。

私達が知るイタリア。

中には、職人気質が感じられる、
または、農家と自然の共存が感じられる小さな規模の営みから生まれる成果物も沢山あります。

大手の工場型ワイナリーは、効率よく製品を仕上げ、
イメージをまとって世界に【イタリア】を発信している。

流通・物流マーケットが機能し、安定的にお給料を貰える人がいること、そして、ワインを気軽に楽しめる消費者のことを思うと、それも大事な事だと思います。

でも、私はあえて、小さな農家の成果物を日本の皆様に紹介したい!

小さな小さな規模ですが、
イタリアの空気が詰まった【Made in ITALY】を、
発信し続けたいと思ってます。

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