幸せ入浴中!
「エリーナ、今どこ?」
「まだ、家なの。これから出ようとしているところ」
「え~、あと13分でバスが来るみたいよ。
バス亭に時刻が記載されてないけど、
待ってる人はそう言ってる・・・・」
私の心配とは裏腹に、エリーナは落ち着いた様子で登場し、5分後、私達を乗せたバスは、ボローニャへと出発しました。
「実はね、今朝、息子の具合が悪くて、バタついてしまったの。風邪が流行っているからウイルスに感染したのね。幸い、旦那が看病してくれて、助かったわ。昨日から悪いことが続くのよ・・・
カメラに収めてあった写真を間違って全部削除しちゃったの!
中には、プーリアやサルデニに旅行した写真もあったのよ・・・」
「それはショックね…」
「もう一度、写真を撮り直しに、同じ場所に戻れってことなの!キヨミ、今度、家に来て、写真撮ってくれる?
我が家の大型猫を抱えた写真も消えちゃたの!
あれ、もう一度、再現したいわ!」
フィレンツェを通過しトンネルを抜けると一面の雪景色。
「素敵!故郷のウクライナもこんな感じ!」
私より1つ年上のエリーナは、いつも少女のようで、
心地よい会話は途切れることがありません。
「ところで、今日のコンサートの詳細も、
知らないんでしょ?」
「そうよ!お楽しみにとっておくの!」
といって、フフフと笑うエリーナ。
ボローニャのバス亭に到着すると、
今晩、バイオリンを弾くスイス人のヨハンと、
彼の恋人シモネッタが出迎えてくれました。
ホテルに荷物を置き、シモネッタの案内でボローニャを見学。私達は、よく歩き、よく喋り、まるで、修学旅行のような気分です。
地元の人で賑わう食道でランチを堪能し、珈琲を飲み終えた頃、まだ、エリーナがシエナに到着したての97年の様子を語っています。
「はい、そろそろ、この章はお終い!
リハーサルに向かわなくちゃ!」
今日の目的は、ボローニャの観光ではなくコンサート。
ヨハンがバイオリンを弾き、エリーナはピアノで伴奏をし、私はピアノの譜面めくりのお手伝いです。
リハーサルを終え、ホテルで休み、
いよいよ、本番の18時が近づいてきました。
30分前、会場の半分が埋まり始め、
私達は控室で待機しました。
普段着の神父様と挨拶を交わし、軽い打合せ。
「私は、月曜から金曜まで、貧しい人に昼食を提供しているんですよ。
毎日90人がやってきます。
当初はね、‘あの神父のせいで、ボローニャの中心街に乞食が集まるようになった!犯罪の種が増えた!’と言って、相当な非難を受けたんですよ。
ネットで私の名前を入れてごらんなさい、た~くさんの悪口がダ~っと出てくるから。
そこで私は、土日の夕方にコンサートをすることを思いついた。
いつも満席ですよ。
1日に2通は音楽家からメールが入る。
ボローニャ市民のための無料コンサートを始め、認知されるようになったら、市長も流石に文句を言えなくなった・・・」
神父様の話を聞いて、このコンサートに脇役としてでも参加できることに、心が満たされます。
「ところで、演奏時間はどの位ですか?」
「1時間と10分です」
「ん~、出来れば1時間でお願いしたいところだね。
観客は高齢層。19時にコンサートが終わり、
1時間ほどで家に着き、20時は晩御飯を家で食べる。
庶民の生活時間に合わせなければならないんです」
神父様は相当なおしゃべり。
腕時計をちらっと見ると、公演5分前。
そして、18時の鐘が鳴っても、
神父様はお喋りを続けています。
「あの~、神父さま、時間が過ぎてます!」
咄嗟に口走ると、「お~、時間だ・時間だ!」と言って舞台に向かい、慣れた口調で聴取に話しかけてます。
「お願いですから、携帯はオフにしてくださいよ~」
と言うと同時に、誰かの携帯が鳴ったもんだから、
私達は笑ってしまい、その笑顔のままで舞台に飛び出した。
コンサートは大成功!
この日の夜は、シモネッタの友人宅に招かれ、
手作りのラザーニャと愉快なお喋り、
スプマンテで盛り上がりました。
ホテルに戻ると、エリーナはラベンダーの香りと共にバスを楽しんている。
私は、前日の夜に寝ていなかったので、そのまま夢の中・・・
翌日の朝、
バラの香りと共に、バスタイムを楽しみました。
お腹が空いたから、食事の準備をする。
用をたしたいから、トイレに向かう・・・
そして、将来の幸せに備えて、今を頑張る・・・
そうやって、常に先のことを考えて、今という時間を費やすことが多いけど、この日は、私の44歳の誕生日。
だから、バスルームもちょっとデラックス!
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