味のある田舎町
「何なのよ、あっちこっち、行ったり来たりして。
こっちまで、気が散るじゃないの!」
「カバン、見なかったか?」
「あの、書類の入ったカバン?」
「さっきのバール(喫茶店)で寛ぎすぎた・・・・
カプチーノを2つ手に持って表テーブルに運んだだろ?
その時、カバンを傍にある椅子に置いたまま、すっかり、忘れてたよ」
「レシートにお店の電話番号があるわ!電話して!」
アクアボッラの件で市を訪れたこの日は、丁度、市場が出る日でもあり、沢山の人がバールに訪れます。そのため、電話をかけても応答しません。
「行ってくるな!」
飛び出してから1時間後、
パトリッツィオは戻ってきました。
「バールに訊ねてみたけど、知らないってさ。
店付近も、近くのゴミ箱も探したけど、見当たらない。
金目のものが無いと分かれば、どこかに捨てるはずなんだが・・・」
「とりあえず、ワインの発送を終えたら、
また探しに戻りましょうよ」
昼過ぎ、私とパトリッツィオはバールに戻りますが、
閉まっています。
市場の跡片づけをしている清掃の方に声をかけ、
市の職員に頼み、誰かが、カバンを届けてくれていないかどうか、全ての部屋を回って見ました。
「これ以上、町中を探しても無駄だな」
「そうね」
駐車場に戻り、車を走らせ、ゴミ収納ボックスがある度に、一時停止をしては、ふたを開けて、中を覗き込みます。
「ないわね~、じゃ次!」
「この日の事は、将来、思い出に残るぞ!何てったって、世界で有名なキャンティ・クラッシコ地区のゴミ箱、全てを巡回しているんだからな!」
こんな状況でも冗談が湧いてくる彼に呆れてしまうが、
この才能、羨ましくもある。
「ゴミ箱巡りに付き合わされるなんて・・・
レストラン巡りとかの方がいいわよ!」
「キヨミ!そんなの誰でもしていることだろ!平凡だ!
ゴミ箱巡りが出来るのは、俺、ただ一人だぞ!
しかも、キャンティクラッシコ地区の!」
「それも、そうね!忘れられないわね、きっと!」
彼のペースにつられ、楽しくなってきました。
「ねえ、モルディッキョのバールに立ち寄って、珈琲、飲みましょう!」
「了解!」
田舎道にポツンとあるこのバールには猫がいて、よく噛みつくので、モルディッキョ(噛みつき君)と呼ばれています。
寝そべっているモルディッキョの頭を撫で、
店のドアを開けようとしたら、閉まっている。
そこへ、御婆さんが取り込んだ洗濯物を抱えてやってきました。
「今、開けるわね。ちょっと、待っててちょうだいな」
お店に入ると、珈琲マシーンの電源もオフになっているので、ビールをオーダーし、カウンターで世間話を始めましたが、パトリッツィオの話しの途中で、御婆さんは、カウンターに肘をついた姿勢で、首をスーッと垂らし、イビキをかき始めました。
ハッと気づいて、起きるけど、
また、ス~っと首を垂らし、イビキを始める御婆さん。
「おばちゃん、はい、お金」
お釣りをもらいたいが、お婆ちゃんが寝てしまうので、
私たちは、諦めて、お店を出た。
「しょうがね~な~、あの婆ちゃん」
「疲れているのよ・・・
でも、あんなバール、他には無いものね」
70年代の映画に出てくるワンシーンのような、
田舎の光景が、心地よい。
この日の夜、警察から連絡があり、新聞スタンドでカバンが見つかったとの連絡を受けました。
翌日、町に戻ると、
「カバン、見つかった?」「カバン、どうなった?」と
通りがかる全ての人から声をかけられるので、私たちはスター気取り。
小さな町の住民は、自分たちの町の評判が悪くなることを嫌うため、何としてでも見つけるらしい。
天然のスローライフ、
美味しい時間を味わっている今日この頃です!
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