ナポリのセレナーデ爺さん
「チャオ、パトリッツィオ。もうすぐバス停に到着するわ!」
「おぅ、分かった。今、行くな!」
重たい買い物袋をひきずってバスを降り、
パトリッツィオの車に乗り込みました。
「さっきまでの大変だったのよ。
ナポリのお爺ちゃんに、ず~っと口説かれてたの」
やれやれ、といった、ちょっとイタリア人っぽいジェスチャーで、話しを切り出します。
「あのバスを利用する人なら皆、彼の女好きを知ってるわ。彼が乗った途端に呆れ顔をするご婦人もいるのよ!60代までの女性、全に声をかけてるわね!きっと。とにかく、ご婦人が通りかかる度に、ケ ベッラ!(なんて素敵な!)って、声が漏れるの・・・」
「名物オヤジだな!」
パトリッツィオは面白そうに耳を傾けます。
「耳が遠いもんだから、話しが周囲に筒抜け。
フルートとギター奏者だったんですって。
オペラのさびの部分を次々に歌い続け、終いには、私を見つめて、アマポーラの歌詞 ~君はどうして、一人でいられようか~・・・電話番号教えて!ってリピートするの。ここまで大声で口説かれると、日常会話の一端みたいに思えてくる」
歌って、恋して、食べるをモットーとするイタリア。
特に南の人は、オープンです。
「ほら、古き良きイタリア映画に登場する女は、こんな時、魚屋の女みたいに威勢のいい声を張り上げて ~もう、いい加減におしよっ!て、あしらうでしょ!だから、私も大声で、~何、言ってんのよ~!って答えたわ。」
お爺ちゃんは、歌の合間に、
(私のルックスは、いけてるかい?)と尋ね、
(アイロンのきいたシャツ、エレガントね)と答えると、
(明日は、ブルーのネクタイをするぞ)と言う。
お爺さんの下車駅が近付き、買い物袋を手に取ると、
(いいかい、今のボーイフレンドと分かれたら、次は私の番ですぞ)っと念をおしてドアに向かって行った。
そのわずかな距離も、しっかりと女性を鑑賞している。
「この前なんてね、隣に座ってきて、すました顔して、さり気無くお尻さわってくるから、その手をはたいてやったのよ」
パトリッツィオは思わず、(アハハ)と声をあげた。
「キヨミ、今度、お尻触られたら、そいつの手を掲げて、こう言うんだ。
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