入院編3 「ボランティア」
本を読んでると、病室の入り口に女性が立っていることに気付いて、顔を上げた。
「ごめんなさいね。邪魔をするつもりはないのだけど
何か、お役に立てますか?」
「あ、はい・・・」
「私、ボランティアです。
何か、欲しいものはありますか?」
「すみません・・・昨日の夜から何も食べてなくて、
お腹が空いているのですが・・・」と本音を漏らすと、
「あと1時間で夕食が始まりますよ」と教えてくれた。
「それだったら、待ちます」
「御水をお持ちしましょうか?」
「はい。お願します」
「ガス入りがいいかしら?
それとも、普通のお水がいいかしら?」
「普通のお水でお願いします」
5分くらいして、彼女は水を持って現れた。
「時間がかかって、ごめんなさいね」
「いいえ、とんでもないです。
あの~、あなたは、他の仕事を持ちながらも、
ボランティアとして病院に時間を捧げているのですか?」
彼女は私の目をみつめ、常に静かにほほ笑んでいる。
「私ね、沢山の御恵みをいただいて生きているの。
そのうちの、ほんの一部でも、
他の方にお返ししたいって思って・・・」
「私は、キヨミといいます。あなたの御名前は?」
「ダニエラです。では、御大事にね」
彼女とどの位、話をしただろう?
ツーっと、右目、そして左目から涙が顔をつたって滑り落ちていく。
その時、どうして、私が病院で過ごすことになったのか、答えが見えた。
最近、自分のことばかり考えていた。
自分の仕事に有利になる人を仰ぎ、
尊敬のまなざしで見つめ、
また、自分もそのように見られたい、と
益々、格好つけていった・・・・
救急隊、ダニエラのような、ボランティア活動が存在するイタリア社会は、豊かじゃない!
経済破綻とか、不況とか、失業率とか・・・
そんな言葉がニュースにはびこるから、
野の花のように、ひっそりと咲く人間社会の豊かさを見過ごしてしまってた。
お金が無いと、全てがお終。
何も出来ない、生きていけない・・・
という考え方しか蔓延らない以上、人は将来を悲観する。
お金があっても、今を楽しめないのは、
こういうことなのかな?
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