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2012年4月24日 (火)

入院編2 「トイレ」

「すみませーん」

もう我慢できない。そろそろ、すっきりしたい。

思い切って、
スタッフのいる事務に向かって声を発してみた。

「どうしたんですか?」

研修生らしき若い女性が顔をのぞかせた。

「御トイレにいきたんですけど」

すると彼女は
ベット脇にある塵トリのような容器を差し出し、

「はい、これを使ってください」と言って、
私の腰の下に据え、部屋を出て行った。

躊躇しながらも用を足し、
「すみませーん!」と声をあげても、
今度は誰も来てくれない。

左腕には点滴のチューブがあるし、ベットは高いし・・・

集中し、容器から液体がこぼれて面倒くさいことにならないよう、それを床に置いた。

(また、女性が通りかかったら、声をかければいいわ・・・)

用が無い時には、沢山人がいるくせに、
用を頼みたい時になると、今度は、誰もいない。

暫くしてから、不意に若い男性が入ってきた。

「どうですか?様子は」

彼の姿に慌ててしまい、
「あっ、ちょっと、入らないで・・・
その~、御トイレ済ませたんですけど・・・」

恥ずかしいけど、しょうがない。

看護師は、ほんの少し顔色を変えて、容器を手に取り、
部屋を出て行った。

(あ~、トイレが問題ね・・・・)

脳のスキャンを終え、病室があてがわれ、
夕方になると、またトイレに行きたくなった。

部屋に入ってきた年配の看護婦さんに声をかけてみる。

「すみません、トイレに行っていいですか?」

「ダメダメ!まだ動いちゃダメよ。はい、これ」

また、例の容器だ・・・

彼女は慣れた手つきで私のパジャマを下げ、
鼻歌を歌いながら容器に手をかけ、その場で待っている。

「ありがとうございます」

「なんでも、ないわよ!」 

曲になってないような鼻歌を歌い続けながら
部屋の点検を済ませると、彼女は隣の部屋に向かった。

その後も、彼女は「もうそろそろ、御トイレ、どう?」
と部屋を訪ねてくれる。鼻歌を歌いながら。

自分が頼みづらいことを、相手から切り出してくれる、ということは、どんなに有難いことか!

鼻歌を歌い「なんでもないわよ!」と言って、人と接する、
この事を、年配の看護婦さんから学んだ、今日この頃です。

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