シエナのパリオ祭
今日は
キヨミさんの愛猫、ティティです。
パリオ祭前日の午後、玄関を出ると、
疲れをまとって帰宅したラウラに出くわしました。
普段は人一倍明るい彼女。
感受性が高い故に、
何かが起こると、その変化が如実に現れる。
それは、コバルトブルーの空が突如、低気圧に覆われ、ネズミ色に染まってしまったかのよう。
シエナの街では、毎年7月2日と8月16日の年に2回、パリオ祭が催されます。
この行事では、15世紀の衣装をまとったシエナ人が町を行進しますが、ラウラは全ての衣装を一人で管理します。
「いよいよ明日はパリオ祭。今が一番忙しいものね?」
と話しかけると、
「馬が死んだのよ・・・・明日のパリオは悲しいわ」
と答えるラウラ。
「えっ? どこの馬?」
「キオッチョラ(かたつむり)のよ・・・」
小さなシエナの街。
それでも、城壁の中は更に17の地区に分かれ、それぞれの自治体(コントラーダ)には、ワシ、毛虫、カタツムリ、フクロウ・・・等など名称がつけられている。
それぞれの地区(コントラーダ)が精神的なレベルで統治され、自治組織体を成す特殊な街、シエナ。
ここで行われるパリオ祭とは、カンポ広場で行われる地区(コントラーダ)対抗競馬のことで、騎士はコントラーダが決め、馬はくじ引きであてがわれます。
「どこの出身ですか?」 と聞かれたら、
キヨミさんは、「日本です」と答えます。
しかし、シエナの市民にこの質問を投げかけると、
「オーカ(ガチョウ)です」
「イーストリチェ(はりねずみ)です」などなど、
自分が帰属するコントラーダ名(自治体の名称)で答えが返ってくる。
彼らにとってコントラーダとは、
母なる大地であり、そこに集う人間は同士。
パトリッツィオのように、
コントラーダへの帰属意識が薄い、もしくは全くない人も沢山います。
しかし、普段は無関心を装うシエナ人でも、
この日が近づくと、血が騒いでしまう。
コントラーダに帰属意識を持つシエナ人の魂は馬に託され、その馬がカンポ広場で他のDNAを持つ馬と競う。
パリオ祭とは、シエナ人のアイデンティティーが露出した、しきたりなのです。
キオッチョラ(かたつむり という名称の自治体)の馬は、リハーサルの走行中、カーブで支柱にぶつかり命を落としました。
パリオ祭に向け、コントラーダ全員の魂が託され、神聖に扱われた馬の身代わりなどありません。
キオッチョラは今回のレースに参加しませんが、レース前のパレードでは、この馬のひずめが器に載せられ、パリオ祭を共にします。
このひずめを見て、多くの人が涙を流すことでしょう。
シエナ市民はパリオに熱くなり、
そんな彼らの異様なエネルギーに包まれ、中世の仮装行列と、わずか1分半のレースを鑑賞する観光客。
パリオ祭を通じて垣間見るシエナ人の行為と常識。
それは彼らの日常生活における経験と解釈であり、
その蓄積が文化・歴史となる。
「どうして、そんなに熱くなるんだろう?」
「どうして、大人の男が涙しているんだろう?」
12年、シエナで生活をしていても、
彼らの常識を自然に共有できないところに、
自分が、(外人)だと改めて感じさせられる今日この頃。
シエナは小さな街ですが、それを知るには、あまりにも深いです。
パリオ祭が近づくシエナの街の様子はこちらをクリックしてください
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