幸せリセット
今日は
キヨミさんの愛猫、ティティです。
「キヨミー、町に行くから、送ってくぞ~」
「ありがとう、ピーノ!助かるわ。
今、楽譜用意するから、ちょっと待ってて~」
今日は、老人ホームでピアノの演奏をする日。
ランチの営業を終え、
キヨミさんはピーノの車に乗り込みました。
「それにしても、安心した~!
パトリッツィオが検査を受けてくれて。
昨日、血尿がヒドイって話を打ち明けられてから、
悪いことばかり想像しちゃった。
病院のベットが空き次第、手術を受けるんですって」
昼過ぎ、病院で検査を終えたパトリッツィオから電話が入ると、キヨミさんに明るさが戻りました。
「キヨミが思うほど、心配することじゃないよ。大丈夫だ。もし、彼の入院中に車が必要だったら、俺に電話するんだよ。電話番号、分かってるよね」
「ありがとう、ピーノ」
「な~に、友達だろ!」
ピーノの優しさが身にしみます。
「キヨミ、タバコが切れてるから、あの店に立ち寄ろう。
俺の友達がやってる店なんだ。
冗談で、‘キヨミは俺の新しい奥さん’と紹介するからね。そして、‘ナっ、言ったとおり、ゲスな親父だろ?’と振るから、‘本当ね、あなた。この人、すっごいゲスね’って答えるんだよ、いいね」
二人で店に入ると、タバコ屋の主人は、
‘やってきたな、この野郎’とでも云いたそうな雰囲気で、デンと構えています。
「やあ、元気?紹介するよ。彼女は俺の新しい奥さん。日本人だ・・・ナッ?言ったとおり、ゲスだろ、この親父」
ピーノが平然と述べますが、キヨミさんは笑ってしまって、台詞を口にできません。
「お前さん、鏡で自分の顔を見すぎ。だから、ゲス、ゲスって、口癖になっちまってる。お嬢さん、こんな男と一緒に歩いていて、恥ずかしくないのかい?お前こそ相当のゲスだ!」とモグラのような親父さんも負けていません。
「ん~、ピーノはゲスかしら・・・?」
「ゲスに見えないとしたら、お嬢さん、その眼鏡、取り替えた方がいいんじゃないか?度があってない」
タバコ屋の親父さんとピーノは、顔を合わせる度に
(ゲス・ゲス)とお互い言い合っているらしい。
ピーノと別れ、老人ホームに到着すると、
既に、会場には音楽好きの高齢者の方がピアノの囲んで腰掛けています。
20年代~50年代のイタリア歌曲を弾き始めると、思い出箱から記憶が溢れでるようで、皆のリクエストに応えるうちに終了時間はとっくに過ぎてしまいました。
気がつくと、カバンの中で携帯がなり続けています。
着信はパトリッツィオ。
「キヨミ、そろそろ終わった?迎えにいくよ」
「ありがとう。もう終わるところ。5分後に老人ホームの正門前ね」
老人ホームを出ると、パトリッツィオの車が既に待っていました。
「あ~、会えて嬉しい!検査に行ってくれたのね!」
「いつものパターンだよ。手術して石を取り除けば大丈夫」
「今朝、お母さんにピシャリと言われたの。
‘あなたがメソメソしてどうするの。彼を安心させるのが役目でしょう。大丈夫。よい方に考えないと。祈っていますよ’って。
その時、ハッと気付いたわ。
私、あなたが居なかったら、今のように自由な精神で生きることができない、どうしよう?って。所詮、自分のことを心配してるのよ。
お母さんのように、自分を押し殺してまで相手を守るという強さが備わってないみたい。
弱い自分を鏡でみたわ」
目先の成功を追うよりも、これまで構築してきた今を守れること、それが幸せ。
一緒に毎日を過ごすパトリッツィオやダリオ、日本から強い力を送ってくれるお母さん、見守ってくれる友達・・・・愛おしい今の貴重なひと時に気付きなさい、と病気を与えられました。
昨日心配していたような悪い結果ではありませんこと、
神様、願いをかなえてくれて、感謝します。
パトリッツィオの息子、ダリオ(24歳)
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