バッカスの一件落着
今日は
ティティです。
パトリッツィオがkiyomiさんにある新聞記事を読み上げます。
「・・・なんだってさ、信じられない家族の絆だよな」
眉間に皴を寄せるkiyomiさん。
「ねえ、もう一度、始めから一文一文、読んでくれない?意味が読み取れないのよ」
今日の喧嘩はこの一言から幕開け。
「ありえないだろ?10年以上イタリアにいながら
この記事が理解できないなんて」
「一つの単語が分からなくて、内容が繋がらないのよ」
「kiyomiはいつも楽ばかりして、知らない単語を聞き流しているから、そういうことになるんだ」
「何言ってるのよ。あなただって、フランス語がしゃべれるって言っておきながら、実際にフランス人が来ると会話が通じてないじゃない。
私の外国語能力が著しく低いんじゃないわよ!
それに何よ!私が楽しているなんて、非難して。
こうして知らない単語を覚えようとしているんじゃないの。すんなり教えてくれればいいものを、すぐに癇癪起して!」
「kiyomiは1ヶ月のうち、1日だけは明るくて、残りは問題だらけだ。
意地悪だし、キツイし。俺は安らがない。
問題っていうのは、今朝のようにバールの冷蔵庫と水道がいっぺんに故障すること、これが問題なんだ。
Kiyomiには問題がないはずだろう?」
その言葉を聞くや否や、
kiyomiさんは仁王立ちをしてソファーのパトリッツィオを睨み付けます。
「もう、我慢しないわよ!
あなたとの口論を避けたくて、仕事の話はしないって決めたの。そして落ち込んだ時も甘えないって決めたの。
今までだってアパート探しや滞在許可証の申請、盲腸の入院手続きも一人でやってきて、何でも一人でやることが自立だと思ってきたけど、自立とは精神的なことを言うんだ、ってあなたから教わったのよ。
でも頭で分かっていても気持ちは無理してるからぎこちない。
そんな状態では私がポジティブに前に進めない。
私の問題はそういうこと」
そういいながら、kiyomiさんは段ボールに私物の本を次々投げ込み始めます。
「問題なのはアンタの方よ。
私、他所では人付き合い上手くいってるし、
仕事だって、アンタに頼らなくても進行を務めてる。
あんたから、〈問題ある女?意地悪?ヒステリー〉なんて言葉を浴びる日が続くようだっから、他の地で発芽して成長するわよ!私は私に誇りがあるんだから!」
そんな矢先、老夫婦が店に入ってきました。
「ボナセーラ。誰か居ますか?」
「誰も居ませんよ~」
こんな時でも咄嗟の冗談で応えるパトリッツィオ。
「閉まってるんですか?」
冗談を真に受ける老夫婦はアイスクリームを注文しました。
そして、老婦人は店内の棚にあるエプロンに触れています。
「この生地、水を通さないから服を汚さなくてすむわね~」
80代と見られる老婦人は、たたんだままのエプロンをカウンターに載せます。
そんな買い物に動揺するパトリッツィオ。
「あ~このエプロンは、お勧めできないですよ」
「あら、どして?」
「ダヴィデの絵なんです」
フィレンツェにはミケランジェロの「ダヴィデ像」 があります。
その男性のヌード姿の彫刻の顔の部分を除き、
裸体部分をエプロンにプリントしたお土産がコレ。
男性の部分がバッチリのユーモアエッチ商品です。
観光地の店では必ず見かける定番エプロンですが、
この老夫婦はパトリッツィオの説明の意味が分からず、「はあ?」と曖昧に頷きます。
「それより、こっちのエプロンがいいですよ。
お菓子の柄のね」
「でも、この生地だと水を通してしまいそうだし・・・・」
「負けときますから」と強引にお菓子柄のエプロンを勧め、二人を見送ります。
そんなやり取りと聞いていたkiyomiさんは可笑しくてたまりません。
「エプロン買うのに、サイズも柄も確かめないのね?
折りたたんであるまま手にとって!」
「もう、焦ったよ。
冗談も分かりそうも無い真面目なおばあさんの前で、
あんな柄広げて見せる訳にはいかないだろ?」
「もしかしたら良く見えないかも知れない。
あのエプロンしたままで近所にゴミ捨てに行かれたら、たまらないわよね!」
「そうだよ!皆、(どこで買ったんだ、こんなエプロン)って聞くだろうに」
「アクアボッラ!」
大笑いしている最中、
ダリオ君が2階から降りてきました。
「さっきまで、二人の喧嘩声が聞こえたと思ったけど・・・・」
「そうなのよ。いろいろあるのよ」
「Kiyomiが癇癪起こして、また本をまとめて俺達を見捨てようという時に、老夫婦が店に入ってきたんだ。
アイスクリームありますか?って」
「その後、ダヴィデのエプロンを買いたがるから、
もう可笑しくって!」
キョトンとするダリオ君。
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