ダリオの贈り物
今日は
ティティです。
カウンターで洗い物をするkiyomiさんの前に、トイレットペーパーを両手に持ったままパトリッツィオが立ち止まります。
「全く、ダリオの奴ときたら全く分かってない。
トイレットペーパーとペットボトルの水が一緒に収納されてる部屋の様子を見たんだけどさ、
普通だったらガス入りの水、ガスなしの水、そして大きなボトルと小さなボトルをそれぞれ整頓して配置するだろ?
あいつは、そんなのお構いなしなんだ。
部屋の中央に適当に置きやがる」
フムフムと頷きながら泡のグラスを濯ぎます。
「ダリオは、合理性という感覚が少ないまま生まれてきたのよ。整理整頓を怠けているわけではないけど、
‘合理的に’という観念がないから、
傍から見るとだらしなく思えてしまう。
‘普通だったらこうするだろう?’と彼の持たない部分を指摘し続けるとこちらが疲れてしまうわね。私、よくそれに陥ってしまうもの」
パトリッツィオは黙って、kiyomiさんに耳を傾けます。
「その点、私は余裕の神経が薄いまま生まれてきたのね。だから自分を防御するあまりに物事を懐疑的に見てしまい、ついつい批判的になってしまう。
責められると特攻しちゃう私の性格、知ってるでしょ?
余裕があれば、ユーモアで切り返すところだけど、生まれつき太い神経が備わってないから、その部分は不器用だわ」
いつものテレビドラマを見て寛いだ後、コンピュータに向かい、輸出ワインの進行に取り掛かります。
「パトリッツィオ、ちょっと来て頂戴。メールを先方に出す前に、私のイタリア語、チェックしてくれる?」
コンピュータに向き合っていると、ランチに訪れた日本のお客様を見送りに街まで行ったダリオ君がアクアボッラに戻ってきました。
「チャオ、ダリオ」
「チャオ。はいこれ」
ダリオ君が紙袋を差し出します。
「あら、さっきのお客様から?」
「違う、違う。僕からだよ。今まで二人に誕生日プレゼントをしてなかったからね。」
差し出された紙袋を丁寧に覗き込むパトリッツィオ。
中には、チェスのゲーム、革のベルト、そして小箱がはいっています。
「グラッツェ(ありがとう)ダリオ。さっき、お前のことを悪く言ってたんだぞ!」
照れながらもプレゼントを手にするパトリッツィオ。
「グラッツェ ダリオ」
Kiyomiさんに手渡された小箱を開けると、中にはボールペンが入っていました。
「オー、kiyomi。このボールペンはキャリアウーマン用のブランドだぞ!」
声高に喜ぶパトリッツィオ。涙がこぼれぬように、さり気無く潤んだ涙を指先でぬぐいます。
毎週20ユーロと、お小遣いのようなお給料で働くダリオ君からの贈り物。
宝物です。
さて、夜の営業開始。
気がつくと、アダージョだった空気がいつの間にかいつものペースに。
皆、好き勝手なことを口にしていますが、不協和音でも釣り合った響きが快いです。
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